「へっ?」
この数日のパニックで気が動転していたせいとはいえ、玄関先でいきなり謝罪はちょっと不味かったかも?…と恥ずかしい気持ちになりながら座っていると、そんなことを言われて驚いて間抜けな声が出てしまった。
「ヒカルさんに出会ったお陰で、おばあちゃんになれるんですもの♪」
ニコニコと話す塔矢さんのお母様。
「あの…?それはどういう…」
えっ、普通の親なら「よくも娘を」ってならない?
私ならなるかも?
なのに、怒るどころか喜んでくれてる?
「アキラさんは碁が全てで…恋愛より碁、男の価値は碁の強さですの。ですから、結婚どころか恋愛も興味が全くなくて…」
「………」
「お洒落にも興味がなくて、服の買い物も一緒に行ったことなくて」
少し寂しそうに話す塔矢さんのお母様。
買い物は、私もヒカルと行ったことないけど…。
あっ、でも、小さい頃は一緒に行ってたし、女の子は母親と買い物行ってるって聞いたりもするわね…。
もしかして、小さい頃も行っていとか?
ちょっと、それは切ないかも。
「ですからヒカルさんが現れた時は、神様からのプレゼントだと思いましたわ♪やっと、アキラさんのお眼鏡に叶う男性が現れたって」
「はあ…」
「碁だけじゃなくて、アキラさんを色んな所につれ回してくれるし、洋服も「こういう格好のアキラが見たい」なんて、上手く誘導してくれていて、お洒落なアキラがさんが時々見れて嬉ししくて♪」
それは、ヒカルの好みを押し付けてるだけでなんじゃ?
「奥様の気持ちは解りましたけど、ご主人はなんと…」
お義父さんの情報だと、囲碁界の重鎮らしいから、こっちは流石に怒ってるわよね。
「別に何も…。あっ、反対はしてませんわよ。ヒカルさんから頭を下げられて聞いた時は固まってましたけど、ヒカルさんが義理の息子になってくれて喜んでるぐらいですわ」
「そうなんですか…」
良かった…。
というか…、塔矢さんの所にはしっかり報告して、実家には電話と突然訪問ってどういうことよ!ヒカル。
「ちなみに、私もですのよ。ヒカルさん…私の作った料理を「美味しい」って言って、沢山食べてくれて…益々張り切っちゃって」
ヒカル!私はそんなことを言ってくれたことないじゃない!
ちょっと複雑だわ…。
「ですから安心してください。これから仲良くしましょう」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「ただ…一つだけ進藤さんに申し訳ないと思うことが…」
ようやくホッととした私と違って、少し暗い顔になった塔矢さん。
やっぱり何かあるの?
「なんでしょう?」
「結婚式がどうなるか…」
「ああ…それは妊娠してるのですから仕方ないと諦めてますわ」
ヒカルが順序をすっ飛ばすから悪い訳だし、そんなに暗い顔しなくても。
「そうではなくて…アキラさんが「結婚式やりたくない!ウエディングドレスはゴメン」だって、駄々をコネていて…」
「はい?」
「今、ヒカルさんが必死の説得中ですわ。「アキラのウエディングドレスと白無垢が見たい!最低でも写真だけでは!」…って」
……………。
そこ…そこなの?
もっと深刻なことだと思ったのに…拍子抜けだわ。
女性は結婚式にノリノリで、男は面倒臭く思う…って聞くけど逆なの?
(女性なら1度はウエディングドレス着たいと思うと思うのだけど…)
もしかして、塔矢さんって一般的な女性の価値観からズレてる?
まあ、塔矢さんのお母様も良い方だし、ヒカルが幸せになるならどうでも良いことね。
それにしても塔矢明子さん…とてもパワフルな人だったわね…。
これからの親戚付き合い大丈夫かと、正直不安なってたりも…。
ヒカル、塔矢さんを幸せにして、自分も幸せになるのよ。
(ヒカルは塔矢さんにべた惚れだから、塔矢さんを不幸にすることはないでしょうけどね)
私より塔矢さんのお母様を大切にするぐらいにね。