「えっ?」
久し振りにかかってきたヒカルからの電話。
1人暮しを初めて数ヶ月。
食事とかで根をあげて、ちょくちょく顔を見せると思ってたのに帰ってこない…。
まあ、それは私の取り越し苦労だったみたいだから良いとしても「たまには連絡ぐらいいれなさい」と、小言の1つぐらい言ってやろうと思ったんだけど……そんなことは、さっきのヒカルの言葉で吹っ飛んだ。
えっ?結婚?
ヒカルが結婚?
誰と?
ヒカルが女性と付き合ってるなんて聞いてないわよ。
「じゃあ」
「あっ、ちょっと待ちなさいっ!」
それだけ言って電話を切ろうとするするヒカルを止めて、思い付く限りのことを聞いてみる。
「相手は誰なの?お母さんの知ってる人?お付き合いしてる人がいるなんて聞いてないわよっ!」
突然のことに、声が大きくなったり言葉尻がキツくなるのも許してほしい。
「煩いな…。そんなに怒鳴らなくても、そのうち連れていくから」
「連れて行くって、いつなの」
「解らない。オレもアキラも忙しいから」
「解らないって…お父さんにも休み取って貰うから、前もって連絡しなさ…」
ブチッ…ツーツーツー
私が言い終わる前に、ヒカルが電話を切れてしまった。
「…………」
気を取り直して、ヒカルの携帯にかけ直すものの留守電ばかり。
しょうがないから、夕飯の買い物に出かけることにした。
「てっきり、あかりちゃんと良い感じだと思ってたのに」
そんなことを呟きながら、本屋の前を通りかかると、ヒカルのインタビューが載った雑誌を見つけた。
ファッションモデル並みの写真付きで…。
「またヒカルが載ってるわ…」
なんか本因坊っていうタイトルを取ったお陰とかで、ワイドショーやニュース番組に取り上げられてビックリ。
家にも取材が来そうになったけど、ヒカルが止めてくれて助かったのよね…。
あっ、表紙の女性も囲碁の棋士みたい。
「綺麗な人ね…ん?」
なんとなく見ていると『塔矢アキラ』という名前を見つけた。
(そういえば、ヒカル、電話で『アキラ』とか言ってたわよね?)
ヒカルが結婚で、もしかしてこの人?
…って、そんな訳ないわよね。
こんな綺麗な人が、ヒカルのお嫁さんになってくれるなんて…あり得ないわ。
私は、ヒカルが載った雑誌を1冊買って家に帰った。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
それから数日後。
やっぱりというか…なんというか…ヒカルは、相手の女性を連れて突然やってきた。
突然だったから、正夫さんは出張で留守。
(こういうことは、前もって連絡するのが常識じゃないの!全く…)
行き当たりばったりの我が息子に呆れながら、玄関前に出たら…。
「お袋、この人がオレと結婚してくれる人」
「はじめまして、塔矢アキラと申します」
雑誌の表紙だった女性が、目の前にいたのよ。
挨拶も礼儀正し、美人なだけじゃなくて育ちが良くてお嬢様って雰囲気がする。
ヒカル…アンタ、どうやって、こんな綺麗な人と知り合いになったのよ?
こんな育ちの良いお嬢様が、どうしてヒカルと知り合って結婚なんて話になったのよ?
私の頭はヒカルに問い質したいことが一杯で、容量オーバー寸前。
そんな私に、ヒカルは更に混乱させる爆弾を投下してくれた。
「アキラ、妊娠してるだ」
なんですって…っっ!
混乱し過ぎて倒れてしまった私に、誰も文句は言わないと思うわよ。