女王様を手に入れろ! 97
(アキラサイド)

(どうして、こうなるんだっ!)

僕は今、くじ引きで引いた札を持ったまま固まっている。

若手棋士の交流深めることを目的として、不定期で開催されている交流会と言う名の泊まり込み合宿。
今回はベテラン棋士と若手棋士の交流を図ろう…ということで、僕も久し振りに参加することになったのだけど、炊事当番のくじ引きも健在で…当たりくじを引いてしまった。

「…………」

ふと視線を向けると向こうの方で、恵ちゃんがくじを持ったまま固まっている。

(あれは、当たりくじを引いたんだろうな…)

更に辺りを見回すと、別の場所ではヒカルと明美が明らかに「あちゃ~~」と、言いたそうだと判る顔をしているのが見えた。
炊事当番が、僕達2人なのは心配だろうな。
それは、よく解る。
僕も不安だよ。
よりによって、何故、料理が苦手な僕達2人が当たりくじを引いてしまったんだ。
前回の悪夢再びだ。





「アキラ先生~~ヒカル先生~~」

今にも泣きそうな恵ちゃん。
気持ちは、よく解る。
僕も泣きたい。
2回しか参加してないのに、どうして2回とも当たりくじを引いてしまうんだっ!

「なんで、ママと恵が当たり引いちゃうのよ~」

炊事当番が決まった後、僕とヒカル、明美と恵ちゃんが集まったんだけど、4人揃った途端に明美が叫んだ。

「そんなこと言われても…」

不安からかオロオロしている恵ちゃん。
そんなこと言われても、ぐじ引きだから仕方がない。

「とにかく料理はオレが作るから、材料の買い出し頼むな」

僕が頼むまでもなく、もう作ることにしてくれてるんだ。
流石だね…。

「解った…。メニューは恵ちゃんと考えて良い?」
「ああ…簡単なやつにしてくれよ」

僕もスーバーには慣れてるし、下ごしらえなら出来るようになったから、前よりは役に立てる筈だ。
日々光明に猛特訓受けてる恵ちゃんもいるしね。
前回よりはヒカルに迷惑かけないと……思う。






●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇





「えっ、じゃあ前に参加した時にも炊事当番の当たりくじ引いたんですか?」
「うん…。引いた時は「料理が苦手な僕になにをさせるんだ!打つ時間が減るじゃないか!」って思ったよ」
「…………」

恵ちゃんが苦笑いしている。
その苦笑いは「碁を第一に考える所が僕らしい」と思ってくれているのか、それとも呆れているのだろか。
僕らしい…と思ってくれていると良いな。

「ヒカル先生が作ってくれたんで優しいな」
「でも最終日に和谷君に捕まって、店屋物で凌ぐ羽目になったんだよ」
「へぇ~。……あっ、でも…今回も同じようなことにならないことを祈らなきゃ。ヒカル先生久し振りの参加だから、色んな人に声かけられてるから…」

ヒカルが参加すると決まった時「一緒に検討出来る」と、喜んでいる棋士を若手からベテランまで何人もいたな。
ても、僕達がヒカルを必要としてることを本人も解ってる筈だから、きっと大丈夫だよ。

……………
…………
………
……



と思ってたのだけど、恵ちゃんの祈りが通じなかったみたいで、最終日ヒカルは緒方さんや先輩棋士に無理矢理、検討のお誘いを受けてしまい、抜け出せなくなってしまったんだ。
恵ちゃんは手を怪我してしまうし。

【ゴメン、ママ。なんとかパパを連れ出そうとしたんだけどダメだった】

明美からお詫びのLINEが届いた。
緒方さんや先輩棋士に誘われて、断るのは至難の業だろうな…。

「どどどうしよう…」

恵ちゃんは、またオロオロしているけど、僕の考えは決まっていた。

「こうなったら、店屋物を取るしかないね」

現金の持ち合わせはないけど、持ってて良かったクレジットカードだ。
丼物で良いかな…。

「ちょっと待ってください」
「えっ?」
「人数分の店屋物なんて…幾らかかるか…」
「大丈夫だよ」

人数分の店屋物の代金が経費として落ちなくても、僕は困ることはないからね。

「ででも……あっ、そうだ!確か光明君が近くの店にいるんだ」

そういえば、バイト先のオーナーに頼まれて、別店舗にピンチヒッターで入るって言ってな。

「光明君に頼みましょう。私達ツイてます!」
「でも、仕事中だし無理なんじゃないかな?」
「アキラ先生のピンチと解れば、絶対助けてくれますから!!」

そう言って、恵ちゃんが光明に電話を掛け始めた。
そんなに力込めて言わなくても良いと思うのだけど。

「あっ、光明金、助けてっ!……嫌って、そんな…ちょっと待ってっ!光明君」

光明の声は聞こえないけど、速攻で断られたかな?

「助けてくれないと、アキラ先生の秘密がバレちゃう!」

と叫んだ後、恵はちゃんは光明に今状況を説明して電話を切った。

「光明君、すぐに来てくれるそうです」

とても、ホッとした顔の恵ちゃん。
僕もホッとしたけど、光明…バイトは大丈夫なのか?





それから、しばらくして光明が現れた。
凄く息が上がってるだけど、どれだけ急いで来てくれたんだね。
その後、すぐ人数分の食事を作ってくれた。

(我が息子ながら、ホント手際がいいよね)

今回は和谷君や南瀬さんが不参加だから、光明の料理だとはバレないと思うけど、念には念をということで、いつもと違う味付けにするという徹底ぶりだった。






「ところで、その手どうしたんだ?」
「ちょっと転んじゃって…へへへ」
「気を付けろよ」

…なんて会話をしていた。
なんか微笑ましいな…。
このまま何事もなく、恵ちゃんが僕の娘になってくれると良いな…。


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