「まさか、あなたが全勝なんて信じられないわ…」
碁盤を挟んで私の前に現れたのは、綾野香さん。
私の最終戦の対戦相手。
ちなみに、綾野さんも全勝。
「前にも言ったけど、あなたなんかには負けないから」
わ私だって負けない…。
「「お願いします」」
綾野さんと対局が始まった。
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ…。
順調に打ち進めている筈だったんだけど……。
(あっ……)
読み間違えた?
いつの間にか綾野さんの黒が優勢になってるし、この白石も死活が危ない?
しかも、また攻め遅れたかも……。
(どうしよう……)
また、やっちゃった…。
順調だと思ってたら違ったパターン。
やっぱり私がプロになるなんて、無謀だったんだよ。
……もうダメだ~~~。
………………
……………
…………
………
……
「落ち着け」
頭の中に光明君の声が響いた。
「少しでも押されるとパニックになって負けるのがお前の悪い癖だ。冷静になれば勝つチャンスはある、落ち着け」
光明君…。
そうだ、まずは落ち着かないと。
私はプロになるって…プロになって、光明君が悔しがるような碁を打つって決めたんだ!
だから、こんな所で負ける訳にはいかない。
「どんなに苦しい碁でも諦めるな!僕の弟子ならね」
アキラ先生に言われた言葉も思い出す。
負けるもんか!
必ずプロなるんだから!
(考えなきゃ…なにか手はある)
……………
…………
………
……
(えっ?)
碁盤の一部に光が差した気がした。
(あっ…ここだ)
私は、そこに白石を打つ。
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ…。
対局が進んで行く…。
「………」
綾野さんの打つスピードが遅くなっている…。
この手は読んでなかったみたい。
よし、逆転出来る。
でも、最後まで油断しちゃダメだよ…恵。
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ…。
……………
…………
………
……
「……ありません」
綾野さんが投了した。
「ありがとうございました」
勝った…っ!
勝ったよっ!光明君。
「アナタみたいな親の力で、進藤君に近づいた人に負けるなんて、私は認めないっ!」
「信じてもらえないかもしれないけど、親のコネなんて使ったことないよ。アキラ先生の弟子になったのも認められたからだし」
「今日、あなたが私に勝ったのはマグレだから!」
そう言って、綾野さんが悔しそうに対局部屋から出ていった。
相変わらず凄い人だよ…。
思い込みが激しいというか…私に間違いはないって思ってるのかな。
綾野さんには悪いけど、光明君ああいうタイプ苦手だと思う。
(私が彼女って知られたらどうなるんだろう)
想像したら…なんか恐ろしいよ……。
…なんて考えてながら対局部屋を出ると、編集部の記者さんに囲まれてしまった私。
えええええ~~~。
まだ信じられないけど、私がプロになるみたいです。