女流枠のプロ試験最終戦が、もうすぐ始まる。
碁盤の前で対局開始を待つ私は、光明君との出会いやアキラ先生への突撃を思い出してたりする。
(あの時は、ホント…ムチャクチャだったよね)
何年か後にアキラ先生に謝ったけど、今思い出しても顔から火が出そう。
「かっこいい……」
光明君を初めて見た時、無意識にそんな言葉を呟いてたんだ。
ホントにかっこよかったんだから!
金色の髪が風に靡いててりりしくて、ホントに格好良かったから。
一目で恋に落ちました。
でも、学年が離れてるから光明君と接点を持てる訳はなく…。
「小学2年生であんなに恰好良いと将来有望よね」
「流石は塔矢さんの息子さん」
「ご主人も相当なイケメンだしね~」
「最強な遺伝子の掛け合わせだわ~」
「ご主人も碁のタイトルを幾つか持ってるそうだし、塔矢さん良い人捕まえたわよね」
「光明君も将来はプロになるのかしら?」
「当然でしょ。とても強いらしいわよ」
上級生のお母さん達が光明君について話してるのを、耳ををダンボにして聞いたり、時々見かける光明君を目に焼き付ける日々を送ってるうちに、気が付いたら2年生になってたんだよね。
「告白しちゃえば良いじゃない」
家に遊びに来ていた従姉妹のお姉ちゃんに光明君ことを話したら、あっさりそんなことを言われてしまって逆に慌てた。
「えーっ!告白なんて無理だよ」
「無理って…クラスどころか学年も違うんだから、告白でもして接点作らないと」
「でも…」
そんな勇気はなかったよ。
「じゃあ、碁を教えてもらえるように頼んでみたら?」
「えっ?」
考えてもみなかった…。
それでも勇気は必要だった。
早速、光明君にお願いしたんだけど…。
「ああの……しししし進藤君」
「何」
「私に碁を教えてください」
「嫌だ」
私のお願いは、光明君にバッサリと断られました。
(今なら慣れてるけど、始めてだったから凹んだな…)
結果を姉妹のお姉ちゃんに報告したら、光明君に近付く方法を更に提案してくれたんだけど、今思えば、これが私をとんでもない行動に走らせたんだよ。
「あれから色々調べたんだけど、光明君の理想のタイプって光明君のお母さんらしいから、光明君のお母さんに教えてもらえば?」
「えっ?」
「光明君のお母さんをお手本にするのよ」
「でも住んでるところとか知らないし」
「それなら、伯父さんに聞けば解るんじゃない」
「どうして?」
「えーっ、アンタ知らないの?おじさん進藤君のお父さん後援会の会長だよ」
「嘘?」
あとで知ったことだけど、お母さんが極力触れないように、後援会関係の物には関わらないようにしてたらしい。
だから、私も知らなかったんだよね。
「書斎に忍び込んで住所調べちゃお」
お姉ちゃんがとんでもないことを言い出して、引きずられる書斎に行って光明君の家の住所を探したら運良く見つけてしまってお願い行くことになって…。
最初は1回で諦める筈だったのに「1回で諦めちゃダメ!」って、お姉ちゃんに持ち上げられて…光明君に会えるのが嬉しくて益々好きになって諦められなくなっちゃって…毎日通ったっけ。
あの時は回りが見えてなかったかも。
アキラ先生は困ってたし、光明君は心底嫌がってた…。
(正直、嫌われる寸前だったよね…)
ヒカル先生の提案で、なんと光明君本人に教えてもらえることになってビックリしたな。
(光明君に何度も怒鳴られたよね…)
同じ間違いを繰り返して、なかなか上達しない私を光明君は毎回のように怒鳴ってたけど、光明君に会えることが嬉しくて必死に食らいついて覚えて…。
気が付いたら、碁が大好きになってた。
しかも、光明君の彼女にもなれたし。
(ままあ、彼女になっても、凄く塩対応だけどね)
ワザとヤキモチ焼いてもらうようなことしないと、本音を言ってくれなかったりするし。
でも、皆が知らない光明君を知ってるし…ハンバーガー好きなこととか…。
あと…アキラ先生の秘密も。
アキラ先生…親近感が沸いて益々尊敬しちゃう。
それから本気でプロになりたいと思うようになって、今ここにいます。
しかも、今日の対局に勝てばプロ試験一位通過が決まる。
絶対勝って今度こそプロになる!!