今年のプロ試験は、棋院中が盛り上がってる。
なんてたって、進藤の弟子と塔矢の弟子が外来で受験しているからな。
進藤は明美ちゃんを弟子にしたのは知ってたけど、いつの間にか弟子が増えていたなんてな。

三谷正樹、ぶっきらぼうな奴に見えるけど、進藤に棋譜を見せてもらったら、けっこう強い。
受かる可能性が高いな。

そして、更にビックリしたのが塔矢が弟子をとっていたこと。

加賀鉄宏、数ヶ月前に事務員になった筒井さんの息子で父親は将棋のブロだそうだ。
棋力も凄くて、何故今まで出てこなかったんだ？…と、筒井さんまで質問責めにあってたな。
ところで、筒井さんは進藤の中学校の先輩だそうなんだけど、碁もけっこう打てるらしい。
塔矢といい…藤ノ宮さんの奥さんの幼馴染みといい…筒井さんといい……進藤！お前の回りは可愛い系から美人系まで揃ってるんだよ！
羨ましい…っ！
…あっ、でも今のオレはしげ子ちゃんが１番だせ！

塔矢のもう１人の弟子、藤ノ宮恵って、棋院のスポンサーを進藤の後援会会長の娘だろ？
そういえば、何年か前の大会で明美ちゃんに負けた子だな。
光明が見に来てビックリした記憶がある。
藤ノ宮さんは加賀君や三谷君には劣るから、予選は通ったものの合格は危ないかもな。
色々、院生時代の進藤と重なるような気がする……。





「加賀、予選通ったんでしょうね」
「当たり前だ！お前こそヨセ読み間違えて負けたりしてないだろうな」

外部受験者の加賀鉄宏と、去年プロになった進藤の娘、進藤明美との言い争い？も今や棋院の名物。
オレはとっても懐かしさを覚えるんだけど…。
伊角さん達もオレと同じ気持ちらしい。

でもな…明美ちゃんが顔は塔矢なのに進藤みたいなこと言うから…もう笑いを堪えるのが大変でさ。
あとな、加賀君と明美ちゃんのやり取りを偶然見た進藤が、メチャ凹んで寝込んだらしい。
何故？

「お前も女の子の父親になったら解るよ…」

そんなことを、伊角さんがしみじみ言ってたな…。





そんな訳で、今年のプロ試験は、外来３人組のお陰で久々に盛り上がってる。





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久し振りに伊角さんの家族とオレの家族で、行きつけの店に食事に行ったら光明が出てきた。

「いらっしゃいませ」
「どうも……ここここ光明っ！なにしてんの？」
「バイトだけど」

海王ってバイトOKなのか？
というか、お前の家バイトしなくても大丈夫だろう。

「バイトってお小遣い減らされたの？」
「まさか、そんなヘマしませんよ。コックになろうと思って」
「そうよね～。うちの息子じゃあるまいし」

しげ子…息子の前で可哀想じゃないか。

光明がコック？
まずは調理師免許を取るんだとか。
…って、碁はどうするんだよ。
本当にプロにならないのか？勿体ない。
あっ、光明の人生だから無理強いはしちゃいけないって、しげ子ちゃんに言われたんだった。
碁の天才！…なんてオレも含めた囲碁界の連中が盛り上がってしまった為に、プロへの興味を失くしたみたいだと進藤に聞いた。
碁が嫌いにならなかっただけ儲けものだよな。
オレも反省してる。

「仁志に頼まれて光明を雇ったんですが和谷さん達に、いつ知られるか楽しみにしてたんですよ。棋院からもまあ近いし」

オレ達が来た日は、たまたま光明のバイトが休みだったらしい。
この店は棋院の近くにあるけど、隠れ家的店だから、棋院関係者も知らない奴の方が多いだよな。
まさか、棋院のスポンサー兼進藤の後援会会長の親友が経営してたとは。
知ってビックリだ。

「せっかくだから、光明の作った料理食べたいわね」
「今日は光明に作らせますから、思う存分食べてください」

柰瀬からのリクエストに店長が快く受けてくれて、出てきた料理はどれも美味しくてビックリだせ。
碁も強くて、料理も上手いってどうなってんだよ。
しげ子と柰瀬なんか、テイクアウトしてい良いって聞いてたぐらいだ。
この後、この店へ通う頻度が増えたのは言うまでもない。