「碁の検討で白熱するのは解るけど、取っ組み合い止めなさい」
怪我でもしたら大変たから…と、明美に注意してたのだけど…。
とうとう止めに入った恵ちゃんと恵ちゃんを庇った三谷君が、怪我をしてしまったと連絡が入った。
その時、僕と筒井さんはテレビの仕事で地方に出掛けていた。
筒井さんは、ヒカルの紹介で欠員が出た棋院の事務で働いているのだけど、気が付いたら僕のマネージャーのような存在になっていた。
「進藤君スケジュールの入れ方がアバウトだし、塔矢さんは入れ過ぎだし!」
僕達のスケジュールを見た筒井さんが言ったのをきっかけに、僕達のスケジュールを管理すようになったからだ。
そんな訳で、すぐ駆けつけられなかった僕達に代わって、東京でちょうど対談の仕事をしていたヒカルと加賀さんが駆けつけてくれていた。
そして、東京に戻った僕と筒井さんは、恵ちゃんの家を訪ねていた。
恵ちゃんの右手には包帯が巻かれている。
捻挫で済んで良かった。
これも三谷君が、身体を張って庇ってくれたお陰だ。
三谷君の家にお詫びに行った。
「女の子護って足の骨にヒビなんて、男の勲章よ」
金子さんは笑い飛ばしてくれた。
本当に豪快な人だな。
「恵ちゃん、大丈夫」
「大丈夫です。しばらく碁が打てなくなっちゃったけど…」
「だから、詰碁とか参考になりそうな棋譜持ってきたよ」
「有り難うございます」
恵ちゃんが元気良く頭を下げた。
元気そうで良かった。
「あの……明美ちゃん大丈夫ですか?」
なにが?…と聞かなくても解る。
光明が怒って、なにかしてないか聞きたいんだ。
「光明にたっぷりお灸据えられてるよ」
「あ……………」
恵ちゃんが遠い所を見ている。
光明がどうな風に怒ってるのか、想像がついてるんだろう。
恵ちゃんの怪我の原因が明美と加賀君だと知った光明は、静かに怒っていた。
明美とは一切口を聞かず、怒りのオーラを漂わせているだけなんだけど、ヒカルに言わせると、これがけっこうキツいらしい。
「怒鳴ったりしてくれた方が楽なんだよな…」
僕も本気で怒るとこんな感じになるからね。
「仕方ないんじゃなかな。彼女が怪我させられてなにもしなかったら、男として問題ありだ」
「確かに、そうなんだけどさ…」
「クールだった光明が、彼女だっていう男のプライドを持つようになって良かったじゃないか」
「だけど明美が可哀想じゃん」
「だからって助けたりするな」
君は明美や正美には甘いんだから。
明美に大人しくなってもらうチャンスだし、中学生で女の子でプロなんだから、いい加減お転婆は止めてくれ。
「正輝お兄ちゃんに怪我させるなんてっっっ!!」
…と、正美にまで怒られてる明美。
しかもヒカルがいない時だけ限定という…。
「姉貴、これに懲りたら少しは大人しくするんだな」
「はい……」
洋明に留めのように言われて、更に凹む明美。
家で起きたことを話したら、恵ちゃんは苦笑いしていた。
「明美ちゃん凹んでるだろうな…」
ヒカルに似て立ち直りは早いから、そんなに心配はしてない。
「ごめんね…藤崎さん。こんなことになっちゃって…」
僕が恵ちゃんの部屋からリビングに戻ってくると、筒井さんが藤崎さんに謝っている所にだった。
「ビックリしたけど…大したことないから。それにしても…ホント、明美と鉄宏君ってヒカルと加賀さんまんまよね…」
「ハハハハハ……そうかもね」
「そんなに似てるんですか?」
笑う筒井さんに僕が尋ねると、藤崎さんが答えてくれた。
「似てるもなにもそのままだよ!明美ちゃんが塔矢さんに似てるから、不思議なんだけどね」
「恵ちゃんが藤崎さんに似てるから、ホント不思議な感じだよ、あっ、鉄男ってああ見えて女の子に怪我させるのは男として失格たって思ってるから、凄く怒ってたよ」
ふ~ん…加賀さんって、女なんかって感じだけど優しい人なんだ。
「その癖、僕の人生設計狂わしたのは何故なんだろうね…」
「筒井さんなら大丈夫…って思ってるんじゃないの?良いなヒカルも加賀さんも奥さんラブで…」
「ラブなのは嬉しいけど……色々大変なんだよ…」
色々と言う言葉に、なんか感じるものがあるな…。
でも、藤崎さんだって藤ノ宮さんラブなのを僕もヒカルも知っている。
それを藤崎さんに言ったら、真っ赤になって照れてた。
僕が知らないヒカルを知っている筒井さんや藤崎さんに嫉妬しそうになることまあるけど、僕しか知らないヒカルもいるからおあいこだよね。