今日は加賀君の入門テストの日。
岸本先生にお願いされて送られた棋譜を見たり、実際に打ったヒカルの感想を聞く限り、実力はいつプロ試験を受けても即受かりそうだ。
だけど、本当の実力は自分が実際に打ってみないと解らない。
「「お願いします」」
加賀君との対局が始まった。
読みも良いし、攻めのタイミングも良い。
特にヨセの正確性は、目を見張るものがある。
「筒井さんのヨセと目算は凄いぞ」
ヒカルが言ってたけど、教えたのが筒井さんだったら本当に凄いかも。
(明美が負けたのも納得かな…)
明美はプロになったものの、まだまだ少し粗い所がある。
そこに気付かれたら、負ける確率が上がるだろう。
プロ試験に合格出来る実力があっても苦手な所があるから、対戦相手によっては星を落とすかもしれないと思っていたけど、結果はあっさりと合格だった。
「これだけ打てたら、来年のプロ試験受けても良いかもしれないね」
「ホントですか?」
僕の言葉に、加賀君の緊張してた顔が一気に綻んだ。
「これから、うちの門下生として自由に家に来ると良いよ」
「有り難うございます」
対局前からほぼ決めていたけど、僕は加賀君を正式に弟子にすることを決めた。
「ママとの対局は終わったんだよね」
「ああ…」
「じゃあ、今から打とう」
「…今日は流石に疲れたから勘弁してくれ」
「ダ~~~メ」
碁盤の前に引きずられて行く加賀君。
「正輝お兄ちゃん打とうよ」
「おいっ、ちょっと待て」
正美に引っ張られて行く正輝君。
うちの娘達は誰に似て、こんな押しの強い性格になったんだ?
ヒカルに似たのか?
そのヒカルは、今日は仕事で遅くなのだから三谷君を休みにして上げれば良いのに、お前と光明がいるから大丈夫だろって、僕と光明に任せて行った。
まあ、「プロにならなくても光明が碁に関わって欲しい」というヒカルの願いもあったりするんだけど。
「なんで、そっちなんだよ!こっちの方が大きいだろっ!」
「でも、こっちに打てば挽回出来る!」
「そんなことしてるから、ヨセで先手取られて負けるんだ!それでもプロか!」
白熱してるな…。
昔の僕とヒカルみたい。
出来ることなら、明美にもプロになる前に出会って欲しかったかな。
こればかりは縁だからしょうがないね。
プロになる前に、ヒカルに出会えた僕は幸せ者かも。
僕の人生変えてくれた気もするし。
佐為に感謝だね。
「親父がいなくて良かった…」
明美達の対局を見ていた光明が、ポツリと言った。
「いたら大騒ぎだったと思うよ…」
言い合いながらも楽しそうに碁を打つ明美と、満面の笑顔でウキウキ碁を打つ正美。
…確かに…。
何故か娘の恋には敏感なヒカルだ。
「嫌な予感がする!」…と言い出だしたと思う。
本人達が無自覚のうちに恋の目が潰されかねない。
それはあまりにも可愛そうだから、ヒカルに悟られないように見守ろう。
「ヒカル先生に悟られないようにしたいね」
「ああ…そうだな」
恵ちゃん、流石うちとの関わりが長いだけあるね。
光明も恵ちゃんと同じ気持ちみたいだ。
「正美ちゃん…三谷君が気になってるみたい。もしかして初恋?」
いや…恵ちゃん…初恋は多分ヒカルだよ。
違っても、ヒカルってことにしておかないと拗ねるから…。
「なんかお似合いですよね」
どうかな…。
まだ兄妹って感じのような…?
僕には恵ちゃん(実際の指導は光明)と加賀君、ヒカルには、明美と三谷君が弟子になった。
ヒカルと僕は門下生で研究会を分けるつもりがないから、これから毎日賑やかになりそうだ。