女王様を手に入れろ! 68
(正輝サイド)

オレと加賀はヒカル先生の自宅の玄関で、緊張の瞬間を迎えていた。

(家がデカイ……)

大会後の夜に早速親父が連絡を取ってくれて、今日弟子入りのテストをすることになったんだ。

「素の進藤を知ったら幻滅するかもな(ね)」

…って、親父と母さんが笑ってたな。
インタビューとかでも飾らないから大体想像はつくけど。
親父はいつも「進藤なんか!」…と言ってるけど先生の記事やTVはほぼチェックしてることを、オレは知っている。
加賀はアキラ先生のスケジュールが合わなくて別の日になったんだけど、せっかくだから2人で来い…ということになった。

「おう、来たか!」

うわ~~~憧れのが目の前に!

「ははじめまして、三谷正輝ですっ!」
「加賀鉄宏ですっ!」

加賀も珍しく緊張して直立不動だ。
アキラ先生がプロが1番だって言ってるけど、ヒカル先生も好きだって言ってるもんな。

「多分、お前達と打つことになるだろうから、オレの子供達を紹介しとくな。光明と明美は知ってるよな」
「はい」
「あと、洋明に正美」
「進藤洋明です」
「正美です」

2人は、オレ達にペコリと頭を下げてきた。
洋明君はアキラ先生男版って感じ?
但しおかっぱではない。
仁美ちゃんはヒカル先生女版って感じ?但し黒髪一色。

進藤先輩はバイト、進藤は棋院から帰ってきてないそうだ。

「あと、アキラの弟子の藤ノ宮恵ちゃん」

「ふふふふ藤ノ宮!なんで、ここに?ってか、アキラ先生の弟子って?」

聞いてないぞ!!おいっ!
加賀なんて、ビックリし過ぎて固まってるよ。

「そういえば明美と同じクラスだって言ってたけ。恵ちゃん言ってなかったのか?」

「…なんかチャンスがなくて……」

いや、言うチャンスはあったと思うぞ。

「恵ちゃんは表向きはアキラの弟子だけど、教えてるのは光明だから」
「「え~~~~~~っっっ!!!」」

思わず悲鳴をあげたオレと加賀。
小4の頃から、藤ノ宮に碁を教えてる?
……スゴすぎる。
だから進藤先輩、大会見に来てたんだな。
藤ノ宮の対局を見るために。
藤ノ宮が進藤先輩と仲良く話してるの見てイライラするわ…何故か進藤先輩に思いっきり睨まれるわ…で、オレにとっては優勝したのにイライラの残る大会になったんだよ…実は。





「お前が三谷の息子か…。三谷にソックリだな」
「よく言われます」

頭以外は判子みたいにソックリだってな。
嬉しくない…。

「さあ、早速打とうか」
「お願いします!」
「お願いします」

やっぱり進藤先生は凄かった。
読みが速くて速打ちだから、考える時間をあまり与えてもらえなかった。

「流石は三谷と金子の息子だな。プロになりたいなら面倒見てやる」
「ありがとうございますっ!」

こうして、オレはヒカル先生の弟子になることが出来た。

その後、仁美ちゃんと打ったんだけどな。
…小1でこれだけ打てるのか?
……碁のDNAと英才教育のなせる技だな。

ちなみに、加賀はヒカル先生に打ってもらいながら、明美に怪我させるなよ…と釘を刺されていた。
もしかして、ヒカル先生って娘溺愛タイプなのか。

そんなことを思いながら、ヒカル先生の弟子初日は終わった。





●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇





「失恋決定だな」

ヒカル先生の家からの帰り道、突然加賀言われた。

えっ?

…………………………
………………………
……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……

あっ、そうか。
そうだったんだ。
オレ藤ノ宮のこと……
好きだったんだ。

進藤先輩と藤ノ宮が2人でいる所を見て見て、イライラしてたのはそのせいか…。
気付いたら納得だけど、気付かなくて良かった気もする。

「ジュース奢れ」

余計なことをしてくれたような気がするから、加賀に奢ってもらおう。

「なんで?」
「お前が余計なこと言わなかった気付かなかったんた。責任とってジュース奢れ」
「オレ、お袋に小遣い減らされて今月苦しいんだぞ」
「知るかっ!そもそも進藤と大喧嘩して暴れるからだろうが…」

日高先生に呼び出されたおばさんはカンカンに怒って、3ヶ月間小遣い蹴らす!…と宣告されたそうだ。
普段穏やかで優しいけど、本気で怒ると怖いんだよな。
アキラ先生も呼び出されてけど、先生の方は呆れてるって感じだった。

「缶ジュースぐらい安いもんだろ」
「今のオレには百何十円でも惜しいんだ!」
「五月蝿い」

気付かない方が良かったことを気付かせてくれた罰だ。

でも…まあ…進藤先輩に喧嘩売るつもりもないし、売っても無駄な気がするし、藤ノ宮は危なっかしからお守り役でもやりますか。
進藤先輩の意外な所も見れたしな。
あんなに睨んだりも出来るんだ。
これからも進藤先輩の色んな所見れるかも?
ヒカル先生の弟子生活は色々楽しそうだ。





ところでさ…。
ヒカル先生の家にいる間、仁美ちゃんにずっと見られてる気がするんだが……。
オレ、なにかした?
いや、普通に碁を打ってただけだよな。
あっ、勝ったのが不味かったのか?
色々、考えたけど解らない。





数年後に解ることだけど、仁美ちゃんとの出会いが、オレの人生のターニングポイントだったんだよな…。


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