「おい、藤ノ宮」
「岸本先生…なんですか?」
「お前は一応塔矢の弟子ということになってるから、代表になってもらわないと困る」
岸本先生…『一応』って、もしかして私の師匠が光明君だと知ってる?
あっ、無理矢理幽霊部員にされたって言ってたから、岸本先生と打ってても可笑しくない。
棋風でバレたかも。
「はい…」
アキラ先生と光明君の名誉を傷つけないように頑張ろう!
「お願いします!!」
団体戦のメンバーを決める海王中囲碁部トーナメント。
私は順調に勝ち上がったんだけど、準決勝で三谷君に負けてしまった。
三谷君は決勝で加賀君に負けて…結果、私が3位、三谷君が2位、加賀君が1位で私達3人が団体戦の代表になった。
「この大会に優勝したら、岸本先生がアキラ先生に紹介しても良いって言ってるから頑張るぜ!」
加賀君…アキラ先生の弟子になりたいんだよね。
実は私がアキラ先生の弟子であることは言ってない。
別に話しても良いんだけど、話した後の加賀君の反応が怖くて…。
そういえば、加賀君のお父さんってヒカル先生の先輩なんだし、そのつてで弟子に入り志願すれば良いのに…と思ったんだけど、お母さんによると、加賀君のお父さんアキラ先生のこと嫌いだから『絶対オレ達からは頼まない。自分でなんとかしろ!』…って言われたみたい。
「オレも、この大会に優勝したら、親父がヒカル先生に頼んでみるって言ってたから頑張るぜ」
2人とも頑張ってるな…。
私も、もっと力付けてプロ試験受けないと、光明とライバルのプロ同士として碁を打つ夢を叶えられなくなっちゃう。
そして、大会当日。
今年の大会会場は海王中になったんだけど、お母さんは来るって聞いてたから良いとして、なんで光明君がいるの?
見に来るなんて聞いてないよ。
お陰で、会場が軽くパニックになってる。
小学校からの持ち上がりは、光明君のこと知ってるみたいだし、囲碁を打ってる人なら存在は知っているから…。
女子生徒の黄色い悲鳴が凄いんだけど!
私が光明君の彼女なんだけど!……って言えたらな…。
色々あって内緒なんだ。
あと、知られた後の女子生徒の反応が怖い…。
「進藤光明…」
「本物だよな」
加賀君と三谷君と碁を打ってる上に、持ち上がりだもんね。
憧れの人登場に2人ともビックリしてるみたい。
私もビックリなんだけど…平常心…平常心…。
「お願いします!」
大会が始まった。
大会の団体戦は全対局を、三将を私、副将が三谷君、大将が加賀君で戦うことになったんだけど、私は光明君が見てるのもあってか緊張しちゃって、2回負けちゃった…。
頭から火が出そうなぐらいの凡ミスで、光明君やアキラ先生、お父さんに怒られる~
「やった!三谷君、勝ったよ!優勝だよ!」
私はダメダメだったけど、加賀君と三谷君が頑張ったから、私達は優勝出来た。
嬉しくて興奮して、思わず三谷君に抱きつく。
「ちょ、おいっ!」
「離してやれ!三谷が窒息する」
加賀君に言われて、我に返った私は直ぐ三谷君から離れた。
「あっ、ゴメン!嬉しくてつい」
「思いっきり首絞めやがって…」
うん…なんか視線が…って…光明君?
もしかして今の見てた?
ワザとじゃないよ。
あ~~~凄い機嫌悪そう。
「見に来いと言っても来なかったお前が来るなんて、誰が目当てなんだろうな」
「言ったら承知しませんよ」
「黙っててやる。その代わり今度指導碁にでも来い」
「………解りました」
「それにしても、お前もそんな顔するだな」
「…………」
「学校が違うと色々不便だな。まあ三谷に取られないようにな」
「…………」
「あっ、加賀は塔矢の三谷は進藤の弟子入り希望だ」
「…………」
岸本先生が、光明君にそんなことを言ってるなんて、私は知らなかった…。