ヒカルに呼び出されたんだけど、待ち合わせ場所がラーメン屋ってどういうことなんだ?
2人の休みが重なった今日、藤ノ宮さんにラーメン食べに行こう…と誘われていたヒカル。
もちろん指導碁付き。
その後に「話したいことが出来たからお前も指導碁終わったら連絡くれ」と、ヒカルに言われていたからLINEしたら…
『ラーメン屋にいるから来て』
…と返ってきた。
後援会の会長とラーメン屋って…。
フレンドリーに付き合うなんて、ヒカルぐらいだよ。
少なくてもうちは考えられないな。
「この間は助かったよ。光明君が来てくれて、しかも作り置きまでしてくれて」
カフェに移動したら、藤ノ宮さんのお礼から始まった。
「光明が役に立って良かったです」
ヒカルの勘が当たった訳だ。
僕としては、ちょっと複雑だけど、まあ妊娠中から4人の子育てに積極的に参加してくれた結果だと思えば嬉しいかな。
「いや~光明君の料理が、あまりにも美味しくてね。思わず高校に入ったらレストランで働いてみないか…と、提案してしまったんだか…良かったかな?」
藤ノ宮さんからレストランでのバイトを提案されたと光明から聞いて、ヒカルと2人でビックリしたけど、僕達は反対するつもりは全くない。
「光明がやりたいと言うなら、オレ達は反対しません。それどころか、こっちからお礼を言わないといけないことで…有り難うございます」
僕もヒカルと同意見だ。
お礼を持たせて、もしかしたら…と思って夕飯の材料持たせたことで、こんなことになるなんて。
「正直言えばプロになってほしいけど、光明君の人生だしね…。あっ、でも恵が光明君をプロにしてくれるかもしれないよ」
「「えっ?」」
思わずヒカルとハモってしまった。
恵ちゃんが光明をプロに?…どういうこと?
その答えは、すぐ藤ノ宮さんから語られた。
「恵がプロになりたい…と言い出してね」
えっ?恵ちゃんがプロに?
ヒカルの方を見ると驚いている感じだ。
「自分がプロになって良い碁を打てば、光明君がプロになるかもと考えたらしい。もちろん自分がなりたいと思ったから目指す訳だけど」
「恵ちゃんがそんなことを…」
最近の恵ちゃんは碁に益々熱心で、勉強も海王目指して頑張っているみたいだから、なにかあったかなとは思ってたけど、まさかプロになって光明を引っ張りこもうと思ってたとは。
「君達のライバル関係の話を聞いて影響を受けたらしい」
そういえば、いつだったか恵ちゃんに話したな。
「そこでお願いなんだが、恵を塔矢さんの弟子にしてはくれないだろうか」
えっ、恵ちゃんを僕の弟子に。
「師匠を持たずにプロになるケースはあるけれど、恵がこのまま師匠なしでプロになれば、光明君が教えたことが知られて…昔の二の舞になるかもしれない」
それはあり得るかもしれない。
アマがプロ試験に合格するような人間を育てたのが、光明と判れば、またパニックになるかもしれない。
光明を大会に出した後、光明をプロに…って囲碁界中が大パニックになった時、父さんが僕を大会に出さなかった理由が解った気がして後悔した。
光明は、プロにならない!碁は打たない!…と言い出して…。
元々碁が好きだから勉強はしてたし、明美のお陰打たないことはなかったけど、囲碁関係者が家に来たら、絶対部屋には寄り付かない。
そんな光明が恵ちゃんの為に、棋院行くようになったんだけでも凄いこと。
「恵ちゃんのお陰で、碁の楽しさや教える楽しさに目覚めたのに、また揉み消されたら嫌だよな」
ヒカルが言う。
恵ちゃんに教えることで、碁に対する気持ちが変われば…と、院生にとか言って焚き付けて光明に教えさせたのに、振り出しに戻るのは嫌だよね。
囲碁関係者が、光明を1日も早くプロにと言う中、藤ノ宮さんだけは、光明を護ろうと棋院に圧力をかけてくれたお陰で大分下火になって…あの時は本当に有り難かった。
この話しも恵ちゃんの為でもあるし、光明を護る為でもある訳で、僕には断る理由はない。
「お引き受けします。でも実際に教えるのは光明だと思いますが」
「それで良いよ。光明君に負担をかけない為の策だからね」
光明の方が僕より時間取れるし、光明の方が教え慣れてるだろうし。
「ついに、恵ちゃんはお前の弟子か…。明美はオレの弟子になったし、もし光明がプロになったら、オレとお前どっちの弟子になるのかな。やっぱりお前?」
多分、僕。
光明はヒカルをライバル視してるから、ヒカルの弟子にはならないと思う。
あっ、そうしたら恵ちゃんが姉弟子になるのか?
光明、不貞腐れそう。
僕は光明が碁を嫌いにならないでいてくれたら、プロにならなくても良いと思っている。
ヒカルも同じ気持ちだ。
でも、せっかくだから恵ちゃんには頑張ってほしいかな。
ちょっと矛盾してる?