「光明君がプロにならないのは、どうしてなのかな?あんなに強いのに…」
光明が帰った後、私はお父さんに思いきって聞いてみた。
あと、碁を打ってる時の光明君が楽しそうじゃない感じがすることも気になるから、聞いてみることにした。
「それに、私に碁を教えてる時も楽しそうじゃないような感じがする。教えてるからかもしれないけど…なんか辛そうに見える時があるの」
「それは、私達大人のせいだろうな」
「えっ?」
お父さんが話してくれた光明君がプロにならない理由。
「光明は物心ついた頃には碁を始めてな。小学校に上がる頃に大会で優勝した後、何人かのプロに勝ってしまって大騒ぎになってね」
お父さん曰く…。
神童が現れた。
流石は3世。
今すぐにプロになるべきだ。
いつプロになるんだ。
…等々、塔矢さんの後援会やプロ棋士に色々言われて、我慢出来なくなったアキラ先生が…
「プロになるかどうかは本人次第」
…って言ったら、
「絶対!プロにすべき」
…と塔矢の後援会や棋院の幹部から、グイグイ言われたそう。
光明君本人もかなり言われて疲れたのか…
「碁は好きだけど、プロにはならない」
…と言ったそうだ。
「今もだと思うけど、身内と一部のプロ以外は光明君に勝てないというのも、光明のプロへのモチベーションが上がらない理由だろう」
そうお父さんは言った。
ちなみに、光明君が責められていた頃、父さんは静観していたそう。
「もし私がプロになって、良い碁を打ったりしたら、光明君プロになって私と対局したいと思ってくれたりしないかな」
ずっと考えてたことをお父さんに話してみようと思った。
「何を言い出すんだ…恵」
お父さんはやっぱり驚いてる。
私から、プロになる…なんて言葉が出るなんて思わなかったと思う。
「大会に初めて出た頃からプロへの興味が出てきて、今は目指したいって思ってる」
プロになりたいと本気で考え始めたのは、ヒカル先生とアキラ先生のライバル関係の話を聞いてから。
無謀かもしれないけど光明君と私も、ヒカル先生やアキラ先生みたいなライバルで夫婦な関係になれたら良いな…って思っちゃった。
「本気なのか?」
「プロになるなんて簡単じゃないのは解ってるし、私が頑張っても光明君はプロにならないかもしれないけど…やれるだけのことはやりたい」
コックの光明君も良いけど、棋士やってる光明君はもっと良いと思うんだ。
「オレが碁を教えようとしたら、興味な~いって、そっぽ向いてたのにな」
あ~~~そうでした。
幼稚園の頃、お父さんが私に碁の英才教育をしようとしてたんだけど、全く興味を示さなくて諦めた…なんてことがあったっけ…。
「解った…。オレから塔矢さんに話そう」
「えっ?アキラ先生に…どうして?」
「プロ試験を受けるなら師匠がいた方が良いだろう。光明君が師匠だなんて解ったら、また大騒ぎになるだろうしな」
お父さんの言う通りかもしれない…。
全く碁を知らなかった小2の私に、1から碁を教えたことが知られたら大騒ぎになって、また光明嫌な気持ちになるかも。
アキラ先生の弟子になれば、光明君に教えて貰ってることは知られずに済むかな。
「それとも師匠は進藤君が良いか?」
ヒカル先生も好きだけど、アキラ先生が良いです。
「オレが叶えられなかった夢を受け継いでくれるなんて、なんか嬉しいな…」
「お父さん…」
そうか…お父さんプロになりたかったんだよね。
会社を継がないといけなくなって諦めたと、最近知ってビックリしたんだ。
お父さんの分も頑張ろう。
「でも、まずは海王中受験だな。院生にならないんだったら、海王ぐらい強い囲碁部で鍛えないと」
決意を新たにしてたら現実に戻された。
そうだよね…頑張ります。
「それにしても…光明君、あれだけの料理を作れるならコックも良いよな…。でめ、やっぱり碁に関わって欲しいって思うし…難しいな…」
お父さんが、しみじみと言う。
うん、私もそう思うよ。