「外でお茶するよりも、良かったら今から家に来ない?」
「えつ?」
「家の方がゆっくり話せるし、今日は恵ちゃんも来てるはずだから…どんな感じで教えてるか見てもらえるし…うん、そうしよう」
近くのカフェでお茶しようと思って誘ったはずが、あっという間に塔矢さんの車に乗せられ拉致られたのでした。
相変わらず凄い行動力だよ~。
「あら、あかりちゃんじゃない。久し振りね」
塔矢さんの家に着くと、美津子おばさんが迎えてくれた。
「ホントに一緒に暮らしてるんだ」
話には聞いてたけど、やっぱり凄いと思う。
進藤家と塔矢家がまるごと一緒に住んでるなんて。
表札は進藤と塔矢が並んでるし。
「明美っ!恵よりテストの点が悪いってどういうことだよ!前より下がってるじゃないかっ!」
「私、海王じゃなくて葉瀬中で良いもん。恵も無理しないで葉瀬中しよう。パパ達が作った囲碁部で良いじゃん」
「う~~ん……でもやっぱり海王行きたいかな。碁の勉強も出来るし、アキラ先生と光明君の後輩になれるし」
塔矢さん達の部屋に入った途端、聞こえて来た子供達の声に驚いた。
怒鳴ってるの光明君?
学校で見かける感じと全然違う。
「いきなり、お見苦しい所を聞かせちゃったね」
塔矢さんが苦笑いしている。
「また明美のテストの点が悪かったんだな。最近は恵ちゃんにも負けてるし…。中身が完全にヒカル似だからね…。これからが不安だよ」
ヒカル成績よくなかったもんね。
塔矢さんの心配も解る。
プロ棋士になってなかったら、どうなっていたんだろう。
「私は光明君に感謝してるの。恵の成績上がったし性格も前向きになったし」
碁を習いたい…って言い出した時はどうなるかと思ったけど。
「僕も恵ちゃんには感謝してるんだ。恵ちゃんに振り回されて光明の情緒が豊かになってきたしね」
「振り回わす…って、あの子迷惑かけてるの?」
「大丈夫だよ」
だと良いんだけど…。
「お母さん…なんでいるの?」
勉強が一段落したのか、部屋から出てきた恵が私を見て驚いている。
「学校で会ってね、僕が家に誘ったんだ」
「じゃあ、さっきの話聞いてた?」
「しっかりね。後で答案見せてもらうよ」
「げっ!」
明美ちゃんが心底嫌そうな顔をした。
「そういえばママと恵のお母さんが一緒にいる所なんて、初めて見たかも」
今まで全力で避けてたからね。
「でも将来、親戚になるんだから仲良くしてもらわないとね」
「えっ?」
将来親戚になる?明美ちゃん…なに言ってるの?
「お兄ちゃんと恵ちゃん両想いで付き合ってるし…これ証拠写真」
めめ恵が光明君にキキキキキスしてる?!
「ちょちょっと明美ちゃん!お母さんに、なに見せてるのよ!恥ずかしいから止めて!」
「色々、話すより見せた方が早いじゃない」
「明美……」
近くにいるはずの恵達の声が遠くで聞こえるような気がする。
ぐらいの衝撃を受けた。
気を失わなかったことを誉めて欲しい。
恵と光明君が付き合ってる?
まだ恵は小学6年生で光明君も中学3年生よね。
付き合うなんて早くない?
「藤崎さん…大丈夫」
「な…なんとか」
「どうやら、そういうことらしいんだ。光明も一途だから余程のことがない限り行く所まで行くと思うよ」
そうだよね…ヒカルと塔矢さんの息子だもんね。
一途だろうな…。
恵も多分一途だから…塔矢さんの予想が当たるかも。
「藤崎さんも恵ちゃんも夕飯食べて行ったら?」
「えっ?悪いよ…そんなの」
塔矢さんの突然の申し出にビックリして、断ろうかと思っているうちにどんどん話は進んでいる。
「作るの僕なんだけど」
「1人増えてもなんとかなるだろ。恵ちゃんも夕食食べて帰るんだから、藤崎さんも一緒でも良いじゃないか」
えっ、塔矢さんじゃなくて光明君が作るの?
「我が家は男が料理するんだよ、だってママ料…」
「明美ちゃんっ!」
「明美っ!」
明美ちゃんがなにか言おうとするのを、恵と光明のが咄嗟に止めてた。
どうしたの?そんなに慌てて。
「あっ、ゴメン…」
明美ちゃんが口元を押さえて気まずそうにしてるけど、なにがあるの?
「ゴメンで済むか」
「お母さんは気にしなくて良いからね」
そう言われると気になるんだけど、聞かない方が良いみたい。
それにしても恵…この家族に馴染んでるね。
夕飯をご馳走になったら、光明君が料理が上手くてビックリ。
塔矢さんが教えたのかな。
これなら、料理が苦手な恵が将来お嫁に行ってもなんとかなるかも。
「無理して恵ちゃんに料理教える必要ないからな」
あの後、帰宅したヒカルがそんなことを言われたんだけど、ホントにそれで良いのかかな。
久し振りにヒカルとも話が出来て楽しかったし、ヒカルの子供達も明るくて良い子達ばかりで…。
ヒカルの塔矢さんと娘への溺愛ぷりには、ちょっと…じゃないな…かなり引いたけど…。
自分の娘は誰にもやらない!…って言ってるのに、恵は光明君の嫁にもらう気満々なんだ。
自分のことは棚に上げて…というやつかな。
色々話してみると、塔矢さんは思ってた感じと違う人で、これからは上手くやっていけそう。
将来は親戚になるかもしれないもんね。
それから、ヒカルの後援会関係のパーティーにも顔を出すようになった。
1人のファンとしてヒカルを応援しよう。