「進藤光明君に囲碁を教えて貰うことになったから」
夕食時、恵の言葉に驚く私。
進藤光明君って、ヒカルの長男で恵より2学年上だったよね?
ということは4年生の子に碁を教わるの?
どういうこと?
「ちゃんと説明して」
「えーっと、塔矢先生に弟子入りしようと思ったら、進藤先生が光明君に教えてもらうように言ったの」
「どうして急に碁なの?碁ならお父さんに教えてもらえば良いでしょ。どうして塔矢さんなの」
「光明君とお友達になりたくて…」
「……………」
私は崩れそうになった。
友達になりたいから、塔矢さんに碁を教わろうなんて…よくそんなことに思い付いたわね…。
とういうか…恵の内気な性格から考えると1人で考えたと思えない。
その辺りをよく聞いてみると、驚くことに姉さんの子に、塔矢さんに碁を教えてもらえれば光明君に近付けるかも?…って、焚き付けられたらしい。
しかも、仁志さんの書斎に忍び込んでヒカルの家の住所を確認をして、今日家まで行ったそう。
姪はなんてことしてくれたの!
恵に余計なことしてくれて!
勝手に住所を調べて連絡もなしで乗り込むなんて…。
私は恵を叱った。
仁志さんの帰宅後に、この事を報告したら仁志さんも恵を叱っていた。
プロを目指してたから、こんな動機で囲碁を始めるのが許せないのかもしれない。
仁志さんに確認してもらうと、ヒカル達は怒ってなくて囲碁教室は光明君でやるということだった。
光明君の為にもそうしたい感じだったとか。
「光明君なら教えられるぐらいの実力はあるし、進藤君が良いと言ってるのだからやらせてみよう」
母親の私も一緒にお詫びに行かないとダメなのは解ってたんだけど、仁志さんに任せてしまった。
それから1度もまたヒカルの所へ挨拶にいく勇気がなくて…。
私は母親失格かもしれない。
今、十分幸せなのに、まだヒカルのことを引きずってるなんて情けないな。
光明君に近付きたいからと始めた囲碁だから、すぐに根をあげるだろうと思っていたけど3年ぐらい続いていて、去年の囲碁大会で準優勝するほど強くなってるみたい。
囲碁教室も続きそうだし、勉強まで見てもらってるおかげで成績が上がってる。
目指せ、海王!なんだとか。
どこまで、光明君を追いかけるつもりなんだか。
「海王は碁を強いから入りたい」
気がついたら、最初の動機はどこえやら…純粋に碁を楽しんでるし、塔矢さんの影響なのか、押しの強い性格になってきた気がする。
明美ちゃんとも仲良くなって、よくヒカルの家に泊まりに行っている。
しかも、塔矢さんとは母親の私がヤキモチを焼いてしまうほど仲が良いみたいで…。
これで、ヒカルの息子と結婚しても嫁姑の問題はなさそうね。
…って、私、なに考えてるのよ。
恵が小学6年生になった時、ついにヒカルの娘、明美ちゃんと同じクラスになってしまった。
そして、今、塔矢さんとパッタリ遭遇。
遂に、この時が来たよ。
「塔矢さん…」
「藤崎さん…」
これは、いい加減に過去に決別しろってことだよね。
しっかり前を向くためにも、塔矢さんと話をしないと。
私は思い切って、塔矢さんをお茶に誘った。