あっ、洋明からメールだ。
今日も藤ノ宮が告白されたか…。
そんなことを、どうして僕にいちいち報告するんだか。
アイツはどうせ断るし、そもそも誰と付き合おうが僕には関係ない。
そんなことを考えながら、家に向かって歩いていると、藤ノ宮と海王の制服を来た男が一緒にいる所を目撃した。
「去年の囲碁大会、藤ノ宮さんの対局はどれも素晴らしかった」
「ありがとうごさいます」
あれは、囲碁部部長だ。
アイツも藤ノ宮狙いだったのか?
藤ノ宮、誉められて嬉しそうだな……。
「碁を初めてどれぐらい?」
「3年ぐらいです」
「藤ノ宮さんて、誰に碁を教えてもらってるんですか?もしかして、進藤光明とか?」
「………」
部長、良いところ突いてるな。
何度も僕と打ってるし、棋風は師匠に似るらしいから気付かれても仕方ないかもしれないけど。
「ま、まさか、私と進藤君に接点なんてないですよ」
僕が教えていることは内緒にしろって、言ってるから否定は当然だよな。
大会中も約束を守ってくれたし。
「でも同じ小学校だったんだろう?」
「そうですけど、あなたも同じ学校なら知ってるでしょう?進藤君の人気。私なんかが近付ける筈ないですよ」
そう言って、藤ノ宮は楽しそうに笑う。
なんで、そんなに嬉しそうなんだ?
お前は事ある毎に、僕が好きだと言ってなかったか?
なのに他の男の前で、どうしてそんなに嬉しそうなんだ?
部長の告白は速攻で断っていたけど。
「楽しそうに話してたな」
「光明君…」
いたの?…って感じの顔で驚いてる藤ノ宮。
僕だって、こんな所に居たくなかったよ。
「どうせならOKして、アイツに碁を終えて貰えは良かったかもよ」
あんなに嬉しそうに話してたんだし、オレみたいなスパルタじゃなくて、優しく教えて
「私が光明君のこと好きなの知ってて、本気で言ってるの?」
ああ…言ってるよ!
「先輩と楽しそうに話してたくせに、まんざらでもなかったんだろ?」
「…私の碁が誉められたってことは師匠の光明君も誉められたってことでしょ。それが嬉しかっただけたよ」
えっ?
なんだよ…それ。
僕が誉められたから嬉しかったって。
思ってた応えと、違うものが返って来て驚いた。
「ホント、光明君て頭良いのに…鈍感な所あるよね…」
藤ノ宮がそう言った瞬間、僕の唇に暖かいものを感じた……。
「…………っっっ!!!」
もしかして?これって……?
状況を理解するまで1分はかかったかもしれない。
僕は藤ノ宮に……キキキスされたっっっ!!!
「私、光明君のこと好き。だから光明君が私を嫌いになるまで、彼女でいさせてください。お願いします!!」
「あ、ああ……はい…」
あっ!
思わず返事してしまった。
キスされたショックで頭が回ってなくて、反射的に思わず…。
……でも、まあ、良いか。
藤ノ宮のことは嫌いじゃないし、
僕の彼女ってことになれば、部長達や藤ノ宮を狙う奴らもいなくなるだろうから…。
そうか!これで良かったんだよ。
うん?待てよ…………
………………
……………
…………
………
……
…あっ、そうか…自分以外の男と藤ノ宮が一緒にいるのが嫌なんだ。
…………なんだ……そういうことか……。
(藤ノ宮のこと好きだったんだな……)
藤ノ宮に告白されてから気付くなんて…
しかも、キスも告白も藤ノ宮からだなんて、男として情けない…。
だから、僕が藤ノ宮のことを好きなのは、もう少し黙っておこう。
後で明美や洋明に、器が小さい…ってツッコミ受けたけど……ほっとけ。
ファーストキスを奪われた男の悪あがきだ!
ところで、洋明…。
会話から、なにから全部…このことを家族中にメールで報告するのは止めてほしかった……。
しかも…藤ノ宮との…キキキスシーンの写真付きで。
父さんか現像してアルバムに入れたとか。
父さん…なに考えてるんだよ…。