今回の大会は2日間で決勝まで勝ち上がると、5局打つことになる。
持ち時間は準決勝までが1時間、決勝だけ2時間の早碁だ。
決勝で両親の解説が、目当てで参加者が多い。
(父さん、子供達にけっこう人気あるんだよな)
あと、子供をダシにしてる母さんを見に来てる親もいると思う。
親世代にも人気な両親だ。
藤ノ宮の1回線相手は年下の男で、藤ノ宮の中押し勝ち。
2回戦は、同じくらいの年の女で半目勝ち。
危なっかしいな…。
準々決勝は年上の男で、藤ノ宮がミスして負けそうになったけど相手もミスして、結局藤ノ宮の一目半勝ち。
相手も同じようにミスしてくれたから勝てたようなものだな。
準決勝は、うちの中学の先輩女子だった。
アンタも父さん目当てなクチですね。
学校で父さんのファンだって公言してるし。
対戦の結果は、藤ノ宮の中押し勝ち。
……さすがに、決勝まで勝ち上がるとは思ってなかったぞ。
……奇跡だ。
別ブロックの明美は、言うまでもなく全対局中押し勝ち。
つまり、決勝は明美はVS藤ノ宮になった…。
嘘だろ?信じられない。
父さんも母さんも驚いてたもんな…。
進藤家全員、藤ノ宮が決勝まで残るなんて思ってたかったと思う。
決勝の対局は、最後まで明美のペースだったと思う。
それでも、なんとか食い下がろうと頑張ってたけど無理だった。
明美が相手なならしょうがないな
父さんには、どういう打ち方がダメで直せば良いか、解説の中で教えてくれたから、これから教える時の参考にしよう。
「良くやったな。まあ回りクジ運の力が大きいけどな。2回戦なんて酷かったぞ」
「兄貴、一言多い」
明美はそう言うけど、2回戦危なかったのは事実だろ?
「兄貴一筋の恵だから大丈夫だけど、他の子だったら振られてるよ」
「そうなったら、せいせいするな」
平穏な日常が帰ってくる。
良いことじゃないか。
「ちょっと素直になった方が良いよ~。そうそうなったら狼狽える癖に」
おいっ!ちょっと待て!
僕が藤ノ宮に振られて狼狽える。
まさか、そんなことある訳がない。
「プロにならないのか?」
「早くプロになれ」
「お前の才能はプロにならないと勿体ない」
大会の間、和谷先生や伊角先生だけでなく、緒方先生や顔見知りのプロ騎士達に言われ続けて疲れたけど、藤ノ宮が決勝まで勝ち進んでくれたから、正直その疲れも吹っ飛んだ…気がする。
1から自分が教えた人が、ここまでやってくれるというのは案外嬉しいものなんだな。
(もしかしたら、打つよりも教える方が楽しいかも?)
藤ノ宮のお陰で、教える方が楽しいと思い始めていた。