女王様を手に入れろ! 44
(光明サイド)

「こんな大会あるんだけど、恵ちゃんと出てみない?」

久し振りに家族揃って夕飯を食べていた時、母さんから切り出された。
棋院主催の子供囲碁大会か…。

「僕は出ないよ」

クジ次第だけど、決勝は僕と明美の対決になるだろう。
それじゃあ家で打ってるのと変わらないし、きっと明美と当たるまでは面白くないと思う。

「だよね~。お兄ちゃんが出たら決勝、私とお兄ちゃんになるもん。面白くないよ~」

あっ、明美も同じこと考えてたんだな。

「じゃあ、明美と恵ちゃんだけで出れば良いよ」

父さんも母さんも僕にプロになれとは言わないし、こういう大会にも無理に出ろとは言わない。

「ちなみに、決勝はオレが解説でアキラ利き手」

父さんからの突然の大会特典暴露。

「なに、その普段ならあり得ない豪華な組み合わせ…完全に客寄せパンダじゃない」

激しく明美に同意見だ。
チラシを良く見ると、子供や親世代に人気な和谷先生や伊角先生がいる。
来場者増やす為に必死だな。

「だから、オレ達も会場にいるけど、ずっと一緒にいられないから光明、2人の面倒見てくれよ」

「…………」

「なに親そうな顔してんの!愛弟子が出る大会に、師匠のお兄ちゃんがが行かなくてどうするの」
「確かにな…」

明美の指摘に、父さんの言葉と全員が頷く姿が。
2人の面倒を見るのが嫌なんじゃなくて、棋院に行くのが親なんだよ。

「恵お姉ちゃん、結構強いから、良い線いくんじゃないの」

洋明は言った。
洋明は最近、藤ノ宮とよく打っているから判るんだろう。

「めぐみおねーたん…つよい」

正美もおぼつかない言葉で言う。
1番下の正美は、まだ4才で、碁を初めたのも藤ノ宮と同じぐらいだから、実力も近くて、強いイメージなんだろう。

こうやって、藤ノ宮の面倒を見なさい包囲網が出来上がっている我が家。
僕以外の家族全員、藤ノ宮が大好きなんだよな…。






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「私が大会なんて…大丈夫かな」

大会当日、明らかに自信が無さそうな藤ノ宮の姿がある。

「良いところまで行くと思うから、父さんが誘ったんだ。自信を持って出ろ」
「頑張ろう!恵」
「…う、うん、頑張る」

ビクビクして不安そうだった藤ノ宮は、僕と明美に励まされで前を向いた。

「よっ、光明じゃないか」
「あっ、和谷先生に伊角先生」

声をかけられて、振り向いてみると声の主の和谷先生と伊角先生がいた。

「お前も出るのか?」

うん、知り合いに会えば聞かれると思ってた。

「出ませんよ。明美達の付き添いです」

僕はキッパリ否定して後に、ここにいる理由を話す。

「ふ~~ん…。で、明美ちゃんの隣にいるのは…お前の彼女?」
「………///」
「そうでーす」

お、おい、明美っ!!
なに勝手なこと言ってるんだよ!
藤ノ宮や真っ赤になってるじゃないか!

「そうか…お前も彼女が出来る年になったのか…」

和谷先生…そんなにしみじみ言わないでください。
彼女じゃないからっっっ!!!

「まあ、それはともかく、光明はいつになったらプロになるんだ」

あっ、やっぱり来た…この質問。
伊角先生から来たか…。
これがあるから、棋院に来るのは嫌なんだ。
父さんや母さんが好きにさせてくれても、棋院の関係者達はそうはいかない。

「才能のあるお前が、プロに来なくてどううる」

伊角先生と同じ気持ちの和谷先生が、更に突っ込んでくる。

「まだ、このままでいたいな…と思ってまして……」

プロに…と話が出る度に、こう応えて僕は誤魔化している。
囲碁界関係者達は、僕がプロになるのが当然だと思ってるみたいなんだけど、人の人生勝手に決めないでほしい。
まあ、囲碁界は2世プロが多いからしょうがないのか。
母さんも2世だし。

とにかく今は大会のことに集中しよう。
明美は間違いなく決勝まで行くとして、藤ノ宮はどこまで行けるだろう?
明美とはブロックが分かれたから決勝まで当たらない。

さあ、藤ノ宮はどこまで行けるのか?
楽しみだ。


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