「こんな大会あるんだけど、恵ちゃんと出てみない?」
久し振りに家族揃って夕飯を食べていた時、母さんから切り出された。
棋院主催の子供囲碁大会か…。
「僕は出ないよ」
クジ次第だけど、決勝は僕と明美の対決になるだろう。
それじゃあ家で打ってるのと変わらないし、きっと明美と当たるまでは面白くないと思う。
「だよね~。お兄ちゃんが出たら決勝、私とお兄ちゃんになるもん。面白くないよ~」
あっ、明美も同じこと考えてたんだな。
「じゃあ、明美と恵ちゃんだけで出れば良いよ」
父さんも母さんも僕にプロになれとは言わないし、こういう大会にも無理に出ろとは言わない。
「ちなみに、決勝はオレが解説でアキラ利き手」
父さんからの突然の大会特典暴露。
「なに、その普段ならあり得ない豪華な組み合わせ…完全に客寄せパンダじゃない」
激しく明美に同意見だ。
チラシを良く見ると、子供や親世代に人気な和谷先生や伊角先生がいる。
来場者増やす為に必死だな。
「だから、オレ達も会場にいるけど、ずっと一緒にいられないから光明、2人の面倒見てくれよ」
「…………」
「なに親そうな顔してんの!愛弟子が出る大会に、師匠のお兄ちゃんがが行かなくてどうするの」
「確かにな…」
明美の指摘に、父さんの言葉と全員が頷く姿が。
2人の面倒を見るのが嫌なんじゃなくて、棋院に行くのが親なんだよ。
「恵お姉ちゃん、結構強いから、良い線いくんじゃないの」
洋明は言った。
洋明は最近、藤ノ宮とよく打っているから判るんだろう。
「めぐみおねーたん…つよい」
正美もおぼつかない言葉で言う。
1番下の正美は、まだ4才で、碁を初めたのも藤ノ宮と同じぐらいだから、実力も近くて、強いイメージなんだろう。
こうやって、藤ノ宮の面倒を見なさい包囲網が出来上がっている我が家。
僕以外の家族全員、藤ノ宮が大好きなんだよな…。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「私が大会なんて…大丈夫かな」
大会当日、明らかに自信が無さそうな藤ノ宮の姿がある。
「良いところまで行くと思うから、父さんが誘ったんだ。自信を持って出ろ」
「頑張ろう!恵」
「…う、うん、頑張る」
ビクビクして不安そうだった藤ノ宮は、僕と明美に励まされで前を向いた。
「よっ、光明じゃないか」
「あっ、和谷先生に伊角先生」
声をかけられて、振り向いてみると声の主の和谷先生と伊角先生がいた。
「お前も出るのか?」
うん、知り合いに会えば聞かれると思ってた。
「出ませんよ。明美達の付き添いです」
僕はキッパリ否定して後に、ここにいる理由を話す。
「ふ~~ん…。で、明美ちゃんの隣にいるのは…お前の彼女?」
「………///」
「そうでーす」
お、おい、明美っ!!
なに勝手なこと言ってるんだよ!
藤ノ宮や真っ赤になってるじゃないか!
「そうか…お前も彼女が出来る年になったのか…」
和谷先生…そんなにしみじみ言わないでください。
彼女じゃないからっっっ!!!
「まあ、それはともかく、光明はいつになったらプロになるんだ」
あっ、やっぱり来た…この質問。
伊角先生から来たか…。
これがあるから、棋院に来るのは嫌なんだ。
父さんや母さんが好きにさせてくれても、棋院の関係者達はそうはいかない。
「才能のあるお前が、プロに来なくてどううる」
伊角先生と同じ気持ちの和谷先生が、更に突っ込んでくる。
「まだ、このままでいたいな…と思ってまして……」
プロに…と話が出る度に、こう応えて僕は誤魔化している。
囲碁界関係者達は、僕がプロになるのが当然だと思ってるみたいなんだけど、人の人生勝手に決めないでほしい。
まあ、囲碁界は2世プロが多いからしょうがないのか。
母さんも2世だし。
とにかく今は大会のことに集中しよう。
明美は間違いなく決勝まで行くとして、藤ノ宮はどこまで行けるだろう?
明美とはブロックが分かれたから決勝まで当たらない。
さあ、藤ノ宮はどこまで行けるのか?
楽しみだ。