「あなたが、藤ノ宮恵さんね」
「はい…なんでしょうか」
アイツは……確かに……橘だったかな。
ことあることに僕に構ってきて鬱陶しい奴なんだよな。
「あなた、進藤君に碁を教えてもらってるだって?」
「あっ、はい…」
僕は学校で藤ノ宮に碁を教えてることは言っていない。
藤ノ宮も同じくだ。
でも、藤ノ宮が僕の上に落ちて来ることが多くなって、いつの間にか碁を教えてることもパレた。
「どうせ、あなたが押し掛けて嫌がってる進藤君に無理矢理教えてもらってるんでしょ」
「そんなこと……」
「あなたのお父さんって、進藤君のお父さんの後援会の会長だから、きっとその力を使ったんだわ」
「光明君が海王落ちたらどうするのよ」
名前すら覚えてない別の女子達から、色んな声が上がっている。
押し掛けて来たのは間違いないけど、碁を教えてるのはお父さんの命令なから、藤ノ宮の無理矢理ではない。
(勝手に想像されるのも困ったもんだな)
さあ、どうやって止めに入ろう。
そもそも事の始まりは、数分前。
クラスメイトが、藤ノ宮を宮本達がどこかへ連れて行く所を見たのが始まりだった。
「おいっ!進藤、女子達が3年の教室に行ったぞ」
クラスの中で割りと仲の良い宮本が、慌てて僕に知らせに来た。
「それがどうした?」
「女子達な、お前が碁を教えてる…名前なんてて言ったけ?…まあいいか。その子がお前に無理矢理教えてもらってて、お前に迷惑かけてるとか話してたんだぜ」
「なんだってっ!」
最初は宮本の言ってることが解らなかったけど、後の説明で解った僕は藤ノ宮がいるとあおしえられた場所に急いだ。
「おいっ!」
今にも手を上げそうだったから、危ないと思って止めに入る。
「進藤君どうしてここに?」
手を振り上げたまま、橘は固まっている。
ほかの女子達も同じだ。
「そんなことはどうでも良い。オレがコイツのせいで海王落ちるって?」
「………」
「勝手なこと言ってくれるな」
コイツに碁を教えたぐらいで、僕が落ちるはずないだろ。
「それに、碁を教えてるのは父親の命令だからな。文句があるなら、お父さんに言ってくれ」
言えたらだけどな。
「…………っっ!!」
橘達は悔しそうに、ゾロゾロとその場を去っていた。
「大丈夫か」
「うん」
藤ノ宮が、なんだか暗い。
宮本が余程怖かったのか?
「どうした?」
「進藤に助けてもらえるのも、あと少しなんだな…って思って」
なんだ…そっちか…。
「そうだな。お前が上から降ってきても助けてやれないな」
というか
「よく考えたら、光明君と同じ学校通ったとして同じクラスにはなれないんだよね」
当たり前だろ…学年が違うんだから…でも。
「先輩後輩にはなれるんじゃないか」
「えっ?」
考えて見ませんでした…って顔してる。
「お前が海王に入れたらの話だけどな」
「そうだよね…」
そして、落ち込む。
「まあ、どうしてもって言うなら教えてやっても良いぞ」
「ホント……」
僕の一言で一気に明るくなる。
ホント…解り易い奴だよ……。
こうして、碁以外に勉強まで教えてることになってしまった。
どうして、あんなことを言ってしまったのか自分も解らないけど、藤ノ宮ならきっと頑張ってくれるだろう。
あっ、そうそう。
藤ノ宮は明美に一緒に海王行こうと誘い、粘り勝ちでOKさせていた。
ということは…なにか、明美の勉強も見ろと。
まあ、良いけどね。