「緒方さんの結婚式には、家族全員で出るぞ」
緒方先生の結婚が正式に決まって、家族全員で出席おするとお父さんか話したことが、大騒動?の始まりだった。
「私と結婚させたくないから、パパやママ、行洋お祖父ちゃん達が緒方さんひ無理矢理お見合いさせたんでしょ!知ってるんだから!パパもママも、皆大嫌いっっ!!」
そう言って、明美は部屋に籠ってしまった。
お菓子を大量に抱え込んで。
「明美、そろそろ機嫌直してご飯食べろよ」
「いらない」
部屋に籠ってから3日。
トイレ以外、部屋から出てこない。
そろそろお菓子も尽きかけてる筈なんだけどな。
「どう?」
「ダメ」
籠り始めた頃は、すぐ出てくるだろうと思って好きにさせていたお母さんも、流石に3日目になれば心配だと思う。
僕も心配だ。
「明美、ヒカルが明美の好きなハンバーグ作ってくれてるよ。食べないの?」
「いらない」
パパなんか嫌いつ!…なんて言われたら、いつもなら卒倒しそうなお父さんだけど、食事を取らない明美を心配してアレコレと、明美の好きな物を作っている。
(こうなったら…アイツに頼むしかないか)
お菓子を食べてるからといっても、そろそろ出て来てご飯をたぺないと体に悪い。
藤ノ宮に電話して事情を話すと、飛んできてくれて…。
「明美ちゃん、新しい服欲しいんだけど自信ないから一緒に見てくれない?」
とか…
「こういう時は美味しい物を食べるに限るよ…」
等々…。
藤ノ宮の説得で部屋から出て来た明美は、そのままショッピングに出掛けて明るい顔で帰ってきたから安心してたんだけど、緒方さんの結婚式まで終わるまで、お父さんともお母さんとも口を聞かなくて、家の中がどんよりとした空気が流れることに…。
家族全員疲れてたけど、特にお父さんのやつれ方は酷かった……。
そのやつれた姿で、結婚式に出席する羽目になった進藤家だった。
行洋お祖父ちゃん達も、少し被害を受けたみたい。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
緒方さんの結婚式が無事終わった。
相手の女性はファッションデザイナーで、とてもキレイな人。
明美の緒方さんへのアタックに、緒方さんが怖くなって、慌てて結婚することにしたことも知っていた。
「面白い子、その積極的なところ好きよ」
…と、明美を気に入り、僕もお母さんもお父さんも、モデルの誘いを受けている。
けっこう豪快な人だったりして。
「私、一生結婚しないから!!」
緒方さんの結婚式が終わった夜、飛び出した明美の爆弾発言。
「はああああああ」
家族が驚く中1人だけガッツポーズな人が…。
「よっしゃっっっ!!」
……お父さんだ。
「…結婚しないでどうするの?」
家族の中で、いち早く立ち直ったお母さんが明美に聞いた。
「プロになる!元々そのつもりだったし覚悟が出来た。緒方さんに感謝しないとね」
プロになるから結婚しないって、どうしてそんな極端な発想になるんだ。
僕の疑問は、明美がすぐ答えてくれた。
「私、器用じゃないしプロと家庭の両立なんて無理だしね」
明美が不器用なのは知ってるけど、あまりにも極端じゃないか。
「プロになって緒方さんと勝負するんだ。そして、勝つ!」
あっ、これは、可愛さ余って憎さ100倍ってヤツなのか?
恋愛対象として見てもらえないなら、せめてライバルとして…なんて…お父さんと一緒だな。
「私は碁と結婚するの」
明美の爆弾発言パート2。
あっ、お母さんが苦笑いしてる。
「アキラさんもヒカルさんが現れなかったら碁と結婚しそうな勢いだったのよ」
明子お祖母ちゃんが、懐かしそうに言ってた。
そうなんだ……。
「明美ちゃんにもヒカルさんみたいな人が現れたら良いわね……」
明美はお父さん似だから、お母さんみたいな男が現れたら良いのか?
いるのか?お母さんみたいな男性。
ちなみに、この時お父さんは明美の結婚しない宣言が嬉し過ぎて、なにも言えなくなっていたらしい。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「恵ちゃん、元気になって良かったね」
僕と打っていた藤ノ宮がポツリと言った。
「あれは、明後日の方向に行ってるような感じだけどな」
まさか、一生独身宣言されるとは…。
「それでも落ち込まれるよりマシだよ」
確かに…。
普段、明るいアイツに落ち込まれると、どうして良いか解らなくなるし。
「碁と結婚なんてピックリだけと、いつか明美ちゃんにも良い人が現れるよ」
だと良いけどな。
明美は、ちょっと危なっかしところがあるから、是非とも現れて欲しいかもしれない。
お父さんの手綱を握ってるお母さんみたいな関係が、明美には合ってると思う。
もちろん明美が、手綱を握られる方だ。
藤ノ宮が教えてくれたけど、明美も緒方さんに相手にされてないことは解ってたらしい。
それでも諦められなくてアタックしてたそうだ。
なんでも、お父さん以外の男性で初めて意識したのが緒方さんだったとか…。
緒方さんのこと本気で好きだったんだな。
更に緒方さん以上の男は現れないと思っているらしい。
だから、人生決めるというか諦めるの早過ぎだよ。
「……………っっ!!」
そんなことを考えながら打っていた僕は、藤ノ宮の一手にハッとさせられた。
コイツ…強くなってる?
今の手、けつこう鋭いぞ。
「どうしたの?私何かミスしてる?」
明美が心配そうに上目遣いで、僕を見ている。
「…なんでもない」
もしかしたら、コイツ強くなってるのかも?
もう暫くしたら、お母さんに見てもらった方が良いかも…。
と、思ってたら次の手が悪手だったんだけど…これはご愛敬というやつなんだろうか。