「よう、進藤」
棋院のロビーで緒方さんに会った。
「次は俺が勝って、お前から本因坊を奪ってやる」
会った途端に言う台詞がこれ。
まあ、オレと緒方さんの状況だとしょうがないけど。
オレと緒方さんは、今本因坊戦の真っ最中。
緒方さんの挑戦をオレが受けている。
情けないことに、2勝3敗で緒方さんにタイトル奪取王手をかけられてた。
「確かに…緒方さんが王手かけてますけど、オレ本因坊だけはなにがあっても手放す気ないんで、絶対、逆転して防衛しますよ」
最近のゴタゴタのせいだなんて、佐為には絶対言えない!
絶対、逆転して防衛してやる!
「ところで…お前の娘は、まだ俺のことを諦めてくれる気配がなさそうだな」
「色々迷惑をかけてるみたいですいません…」
明美は、塔矢先生に会いに来た緒方さんに、猛アタックを続けているんだ。
「大したことはないから良いが…。最初の頃は驚いたがな…」
アタックと言っても所詮8才の子供のやることにだから、大人で百戦錬磨の緒方さんが本気に訳ないんだよな。
「この間会った時は、本因坊戦頑張ってくださいっ…と応援されたしな」
緒方んが、からかうような嫌な笑みを浮かべている。
心理戦を仕掛けて来たのか?
明美~~~。
父親の対戦相手を応援してどうするんだよ!!
「それにしても…どうして俺だったんだ?」
「オレが知りたいですよ~~」
ホントにオレの方が知りたい。
アキラと話し合ってもまったく検討がつかないし…。
明美は塔矢先生にベッタリだったけど…まさか、それでオジ専になったとか?
父親にとって娘の恋はいつまでも複雑だって聞くし、辛いけど応援しないとダメだって言われたけど……緒方さんは絶対ダメだ!!
……緒方さんじゃなくても、やっぱりダメだけどな!
「安心しろ、結婚が決まりそうだ」
えっ?
「ホント?」
前にやったっていうお見合い上手く言ったのか。
「ああ、だからこそ、何としても本因坊をお前から奪う。結婚に花を添えたいからな」
「そうはいかないよ」
結婚は祝福するけど、それとこれとは別だ!
明美、落ち込むだろうな…。
でも、きっと緒方先生より良い人が現れ……いや、明美は一生嫁になんか、行かせるか!!
明美には一生、進藤明美でいてもらう!!
あっ、本因坊は騒然オレが防衛。
明美が本気で残念がってたけど……。