「光明君から囲碁を教わり初めて半年経ちました。
最近は光明君から怒鳴られることも少なくなって順調です。
小学校に入学してすぐ光明君を見かけて一目惚れしたのんだけど、学年別が違うし近付くことが出来なくて諦めるしかないのかと思っていた頃、従姉に今思うととんでもないアドバイスをされたのが、全ての始まり。
「光明君、碁を打つらしいよ。ご両親もプロだし…。おじ様、光明君のお父さんの後援会会長だし」
あっ、そうなんだ…。
知らなかった…。
「光明君はお母さんを凄く尊敬してて理想はお母さんって言ってたらしいから、お母さんの方に碁を教えてもらったら、少しは光明君の理想と光明君自身にに近付けるかもよ…」
そう言って、従姉はスマホで光明君のお母さんの写真を出して見せてくれた。
「この人が光明君のお母さん」
うわ~~凄く美人でキレイな人。
この人が塔矢アキラ…。
光明君のお母さんなんだ。
あっ、でも光明君似てないな。
もしかして、お父さん似?
「光明君の家の住所なら、おじ様の書斎で解るんじゃない?行ってみなよ』
「うん……』
私は、光明君に従姉に言われたことを、そのまま実行してしまった。
ヒカル先生のお陰で光明君に碁を教わることになったけど、お父さんメチャクチャ怒られた……。
「好きな男の子に近付きたいからといって、碁を全く知らないお前がトップ棋士の塔矢さんに、突然弟子入りをお願いするなんて·。今回は進藤のお陰で教えてもらえることになったが…。とにかく、進藤君達がどんな思いで碁に取り組んでるのかや、碁の基礎ルールは自分で調べなさい」
「はい……」
お父さんに言われて、私はアキラ先生やヒカル先生のことを調べた。
囲碁界以外でも有名な2人だから、ネットで検索したら沢山ヒットしたし、私から頼めばお父さんが色々な雑誌を見せてくれた。
調べていくうちに、私はアキラ先生を尊敬するようになっていた。
だって、女性で初めて名人タイトル取ったなんて凄すぎるよ。
お父さんがトップ棋士ってことで色々苦労したと思うけど、今でもタイトル戦の常連で戦ってる。
凄いよ…。
(皆が必死に戦ってる碁を、私は好きな男の子に近付く為の道具にしようとしたんだ……)
アキラ先生…ごめんなさい…。
光明君…ごめんなさい…。
囲碁を教えてもらうようになって半年。
最近は詰碁を解けるようになってきて、碁が面白くて楽しくなってくると、あんな動機で碁を習おうとした私がバカだったと思えてきて、なんかアキラ先生に謝りたくなってきたの。
謝らないと私の気がすまなくて……。
いつか謝れるかな?
それから、ヒカル先生のことを調べてて解ったこともある。
ヒカル先生とお母さんって、同級生だったんだ…。
「なにをボーッとしている?」
「えっ?じゃない!!早くこの詰碁を解け!」
色々思い出してたら、光明君に怒鳴られてしまった……。
今日もスパルタです。
ガチャーーーーンッッッ!!
「えっ?」
「…………ッッッ!!!」
キッチンから物凄い音がした。
確か、アキラ先生がいたんじゃなかったっけ?
「お母さんっ!」
慌てたように、光明君が台所に向かったから、私もついて行ったんだけど……台所は凄い状態になってた。
まるで、私が料理をした後みたい…。
(………もしかして…アキラ先生って料理苦手?)
だから、この間のクッキーに文句言わずに食べてくれた?
私は台所の状態を見ながら思った。
「誰も居ないし、せっかくだから作ってみようかと思ったんだけど……失敗した」
アキラ先生が悔しそうに苦笑いしてる。
「手の手当てしないと」
「これぐらい大丈夫だよ」
「ちゃんとしないと、お父さんが煩いだろ」
愛妻家らしいもんね…ヒカル先生。
この家に来るようになって、たまに見かけるし。
アキラ先生の手当てと台所の片付けが終わって、部屋に戻ると光明君にこう言われた。
「この事、誰かに言ったら…解ってるな」
光明君が凄く睨んでる。
そ、そんなに睨まなくても…脅さなくてもい、言わないよ…。
尊敬するアキラ先生の、こんな姿誰にも知られたくない。
恥ずかしいからじゃないよ。
アキラ先生の名誉を守る為。
世間では、なんでもそつなく完璧にこなし人当たりが良い…と思われてるアキラ先生に、苦手なことがあるなんて知れたら大騒ぎになるかもしれない。
このことは、絶対!誰にも言わない!
でも……。
なんでも完璧だと思っていたアキラ先生に苦手なことがあったなんて……。
なんか親近感が沸くかも。
アキラ先生のことを調べてから、すっかりファンなんだよね~。
益々、憧れちゃう。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「アキラ先生」
アキラ先生の秘密を知ってしまった日から数日後、学校帰りに偶然アキラの
「どうしたんですか?こんなところで」
「ちょっと用事があってね」
用事って、もしかして学校行事関係かな。
もうすぐ運動会だし。
「あっ、この前の火傷大丈夫ですか」
利き手じゃなくてよかったよ……。
「大丈夫だよ。恵ちゃんこそ光明に脅されてたみたいだけど大丈夫だった?」
あっ、やっぱり光明君のお母さん…よく解ってる。
「脅しだなんてそんな…、私、誰にも言いませんから」
あっ!
………せっかく会えたんだし、ここで謝っておこうかな。
急に謝ったらビックリするかな?
でも、ここで謝っておかないと、いつチャンスが来るか解らないし。
よし!
「あの…アキラ先生…ごめんなさい」
「どうしたの?急に…」
「アキラ先生に、弟子にしてくださいってお願い行った頃は、光明君に近付きたいだけだったんです」
「知ってたよ…」
「えっ?」
アキラ先生の言葉に驚く私。
「藤ノ宮さんに聞いたし」
なんだ…お父さん話してたんだ。
それでも、光明君に碁を教えるように言ってくれたんだヒカル先生…嬉しいな。
「今はどう?まだあの頃と同じ気持ちかな」
「今は純粋に碁が楽しいです!!」
「そう、良かった」
そう言って、アキラ先生が微笑んだ。
本当にキレイ人
あっ、そういえば……。
「アキラ先生、光明君は私を院生レベルにしろって、ヒカル先生に言われたって本当ですか?」
同じ学年で隣のクラスだと知って、仲良くなった光明君の妹、明美ちゃんに聞いてビックリ!
「うん、本当だよ」
私を院生レベルにするなんて無茶だよ…ヒカル先生。
「どどどうして、そんなことに……?」
「あ~それはヒカルの焼きもちだから…」
えっ、焼きもちって何?
理由を聞いても、アキラ先生は苦笑いするだけで教えてくれなかったけと……。
気になるよ……。
私が、焼きもちの理由を知るのは、この出来事から10年後。
アキラ先生から理由を聞いた私は、思わず笑ってしまった。
子供にも本気で焼きもち焼くなんて……ヒカル先生可愛すぎ。
それだけ、アキラ先生のこと好きだってことだよね。
かなり、アキラ先生が羨ましいかも。
そこまで好きになってもらえるなんて、やっぱり益々憧れちゃう……。
光明君は、私を好きになってくれるかな?