「進藤君、この間はごめんなさい。これ、お詫びなんだけど…」
放課後、校門を出てしばらくしたところで、藤ノ宮に何か渡された。
たまたま一緒にいたクラスメイトに冷やかされながら、開けてみろよ?と言われたので開けてみたら、形の良くないクッキーみたいな物が入っていた。
「それ…クッキーだよな」
「形はイビツだし、焦げてるやつもある」
「こんなのプレゼントに渡すなんて勇気あるな」
「進藤、食べない方が良いぞ。お腹壊すかも」
クラスメイト達が色々言っている。
煩いな。
僕はクッキーを一枚食べてみた。
「…………」
あっ、しょっぱい…。
砂糖と塩間違えたな。
「進藤、大丈夫なのか?」
クラスメイトが心配そうにしている、
「平気だよ」
案外、食べなれてる味だったりするんだよね…。
まさか、お母さんと同じようなクッキーを作る人がいたなんて…。
(アイツ、一生懸命作ったんだろうな)
なんだかんだいって、碁にも一生懸命だしな…。
僕が怒鳴ってもめげないもんな…。
そういえば…。
(アイツが碁を頑張る姿は、料理を使ってるお母さんに似てるかも?)
ふと、そんなことを思いながら、見た目の良くないクッキーを食べてみる。
「やっぱり、しょっぱい…」
今度、塩と砂糖を間違えるな…と注意しよう。
これ、家族の人と作ったんだよな…。
なのに何故、塩と砂糖を間違えたんだ?
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「ただいま」
「お帰り」
家に帰ると、お母さんが迎えてくれた。
この時間に家にいるなんで、お父さんが心配で仕事を速攻で終わらせて帰ってきたのかな?
「お父さんは?」
「まだ熱が下がらなくて…」
「そう」
お父さんは珍しく熱を出して寝込んでいる。
お父さんが倒れた原因は明美だ。
一昨日のことだった…。
「私、緒方さんのお嫁さんになろうかな」
家族揃って夕御飯を食べていた時に起こった明美の爆弾発言。
「はああああ~~~」
僕やお母さん、洋明がフリーズする中、お父さんの叫び声が木霊した。
その後の一家団欒は崩壊して、大パニックに…。
「ああ明美~お前、なにを言い出すんだ?お前の理想はオレで『お父さんのお嫁さんになる』って言ってたじゃないか」
「確かに言ったけど、お嫁さんにはなれないし、理想なんて変わるものよ。パパが勝手に自分が私の理想だと思ってただけでしょ」
お父さんに中身が似てるけど、意外と現実的な奴なんだよな…。
僕の理想は、いまだにお母さんだ。
それにしても…お父さんに対して容赦ない。
お母さんにも容赦ないけど。
僕が言うのも可笑しいかもしれないけど、明美ってマセてないか?
もちろん、お父さんやお母さんのことは尊敬している。
「そんな~~~」
お父さんがその場に崩れ落ちて、そのまま意識を失ったみたいだ。
勢い良く倒れなくて良かった…。
「えっ、ヒ、ヒカル?!しっかりして!」
「お父さんっ!」
「お父さんっ!大丈夫?」
突然のことに、慌てる僕とお母さんと洋明。
「これで、お父さんも堂々と休めるねw」
慌てている僕達の横で、明美は的はずれなことを言って喜んでいる。
休めるって…お前な~。
その後、お祖父ちゃん達を呼んだりして…色々大変だった。
お父さん、忙しかったから疲れが為ってたところに、明美の爆弾発言聞いて緊張糸が切れたのかもしれない。
体力だけは自信があるお父さんなのに…それだけショックだったってことだろう。
僕だって、緒方さんが義弟なるなんて考えただけで恐ろしい。
というか、明美と幾つ離れてるんだ?
お父さんとお母さんより年上の息子って………考えるのやめよう。
とにかく僕は、明美の理想のタイプが変わることを切に願う。
ちなみに、この話を聞いた行洋お祖父ちゃんと明子お祖母ちゃんが、緒方さんに大慌てで必死に、見合いを薦めだしたのは言うまでもない。
僕も緒方さんを義弟にはしたくないから、さっさと身を固めてくれることを願う2016年の夏だった…。