「だからっ!!そのまま逃げてもシチョウだろっっっ!!何回言ったら解るんだ!!」
「あっ、ごめんなさい」
光明の部屋から、怒鳴り声が響いてくる、
今日も恵ちゃんに教えるのに手こずってるな。
恵ちゃんに囲碁を教えるようになってから、教える日は光明の怒鳴り声が響くようになった。
ちなみに、オレは今日お休み。
アキラは仕事。
最近、オレ達の休みが中々合わない。
すれ違いだ。
2人の時間が取れないことが、ちょっと不満な今日この頃。
碁の神様は、オレ達をすれ違い夫婦にさせたいのか?
なんて、しょげてたら、また光明の怒鳴り声が聞こえてきた。
もう少し、優しく教えることは出来ないのかよ。
「だからっっ!!死んだ石を伸びてどうするんだっっっ!!」
「あっ、そうだった……」
「……何回、同じこと言わせるんだよ……」
「えへへへへ……」
「~~~~~っっっ!!!!!」
光明、イライラのピークかな。
ちょっと息抜きさせてやろうと思って、オレは光明の部屋に行くことにした。
「よっ、やってるな」
「父さん…」
助けて!と言いたげな眼でオレを見る光明。
可哀想だけど、ここは助けない。
子供の成長の為、親はあえて心を鬼にするんだ。
「もうギブアップか…」
人に教えることで、碁に対する何かが変わることもあるからな。
頑張れよ。
「だってさ…何回教えても覚えないんだよ」
「まあ、そう言わずに気長に教えてやれ」
「……………」
「光明に怒鳴られても、めげずに頑張れよ」
「はいっ!」
おお、いい返事だ。
これは、めげてないな。
「ただいま」
「おかえり」
アキラか帰ってきた。
意外に早かったな。
ちょつとした取材だからな…。
「今日も手こずってるみたいだね…。やっぱり、人に教えるなんて早かったんじゃないかな」
光明の怒鳴り声が外まで響いてるらしい。
あの調子じゃ、覚えられるものも覚えられないんじゃないかって心配みたいだ。
確かにな~。
まだ10才だしな…。
てもさ…光明にとってはいい刺激になると思う。
「そうかもしれなけど、アイツの情緒の成長には良かったかもよ」
あんなに喜怒哀楽が激しかったとは、オレも予想外だったけどな。
「まさか、それを狙って碁を教えろって言ったのか」
それもあるって言ったら、怒られるかな?それとも誉められる?
だって、顔はオレに似てるけど中身はアキラなせいか、普段クール過ぎるぐらいクールだし。
オレなりに将来を心配してたんだよ。
そこに恵ちゃんが、碁を教えてくださいって現れた時、もしかしたら光明の為には良い刺激になるかもって思ったんだよね。
棋士の先読み力かな。
それにしても…怒鳴り方がアキラそっくりだ。
まあ、オレの場合は碁に関しては、負けずに怒鳴り返してたけどな。
懐かしいな……。
まあ、ぶっちゃけ現在進行形ですけど。
「だ~か~ら、ツガないと切られて2眼作れなくなるだろっっっ!!!」
また、光明の怒鳴り声が。
思わずアキラと顔を見合わせて苦笑いした。
「いい加減にしろよ…お前の頭の中どうなってるだ!見てみたいよっっ!!」
「ご、ご、ごめんなさ~~~~い」
あっ、恵ちゃんの泣きそうな声も聞こえてきた。
何度も怒鳴られたら、さすがに堪えるかな。
頑張れよ……。
それからも、光明の怒鳴り声が響く囲碁教室で、教室が終わり恵ちゃんが帰った頃には、光明は疲れきっていた。
頑張ったし、今日は光明の好きな物でも食べに行くかな。