「塔矢先生、私に囲碁を教えてくだい」
「………」
ここ何日か、藤ノ宮さんの娘さん、確か…藤ノ宮恵さんだけ?
彼女に突撃されている。
母親は勿論、藤崎(旧姓)あかりさん。
どうしたら良いのやら……。
僕に碁を教えて欲しいらしいけど、正直言って僕が教えるレベルではないんだよね…。
僕か教えるより囲碁教室に通った方が良いと思って薦めてるんだけど、中々納得してくれない。
こんなことになった理由(わけ)を、ヒカルの後援会の集まりの時に藤ノ宮さんに聞くことが出来た。
「アキラさん、恵が迷惑をかけてすまないね」
「いえ……」
本当は、ほぼ毎日来られると辛いけど…後援会の会長の藤ノ宮さんに本音は言えないよね。
「小学校入学して直ぐに、光明君に一目惚れしたらしくてね。なんとかしてお近づきになりたいようで、住所は私の書斎で見つけたらしい」
藤ノ宮さんは、今も変わらずヒカルの後援会の会長だけど、僕達も藤ノ宮さんも後援会関係の集まりに、子供達を連れて出席したことはなかった。
そういえば、藤崎さんもあまり出てこない。
僕に気を遣ってるとか?
まさかね…。
「更に明君が碁を打つと知って、近付くきっかけにと、碁を習い始めたんだ」
光明に近付く為に碁を習うって、動機が不純じゃないのか。
あっ、囲碁人口が増えることは良いことか。
「少し覚えた所で、光明君に碁を教えてほしいとお願いしたら、あっさり断られてしまったようでね」
あ~きっと、バッサリ断ったんだろうな…、
目に浮かぶよ。
「でも、どうしてアキラに碁を教えてなんて…」
隣にいたヒカルが尋ねた。
「ああ、光明君の理想の女性がアキラさんと誰かに聞いてね。アキラさんに教えてもらえれば、光明君の理想に近付けると、誰かが入れ知恵したらしい。…困ったものだ」
8才の女の子にそんな入れ知恵する大人も変だけど、それを間に受けてしまうものなのか?
8才の頃の僕は既に囲碁浸けで、初恋とか全くなかったから…よく解らない。
それから、恵ちゃんに注意をしておくと言うことで話がついた筈だった……。
「お前、また居るのかよ…帰れ」
僕がどうしようかと困っていると、光明が帰ってきて、恵ちゃんに言いはなった。
光明…もう少し言い方ってものが…。
『私はただ…塔矢先生に碁を教えて欲しいだけで…』
恵ちゃんが、少し落ち込んでいる。
「アンタなんかが、母さんに教えてもらおうなんて百万年早いだよ!!」
「光明、言い過ぎだよ」
「事実だし」
僕の息子は本当に容赦ない。
もう少し優しくしてあげた方が良いと思うのだけど……。
「光明、お前ホントに溶射ないな」
そこにヒカルが帰ってきた。
「君が恵ちゃんか。あかりに似て可愛いな」
「は、はじめまして」
恵ちゃんが、ヒカルにペコリと頭を下げた。
なんか、恵ちゃんが照れてる気がするのは気のせいか?
あと、藤崎さんに似てるというのは、余計な一言だ。
「話しには聞いてたけど、ホントに足しげく通ってくれてたんだ」
藤ノ宮さんが注意した後も来てたんだよ。
「ホントはアキラの弟子じゃなくて、光明に教えてもらいたいんだろ」
「はい……」
「じゃあ!光明が教えれば良いだろ」
「お父さんっっ!!」
「お前の棋力なら、十分教えられる筈だぞ。それとも自信がないのか?」
「………そんなことないけど………」
「じゃあ、決まりだな」
「……………」
こうして、光明は恵ちゃんに碁を教える事になった。
光明の恵ちゃんへの態度を見てると不安なんだけど、大丈夫なんだろうか?
あっ、藤ノ宮さんに連絡しないと。