女王様を手に入れろ! 17
(アキラサイド)

「先生…アキラさんを僕にください」

家に帰ると、進藤は僕を連れて一目散にお父さんの所に向かって、顔を見るなり言った。
心の準備もあったもんじゃない。

「ヒカル……本気なのか?!」

ほら、お父さんの隣でお茶を飲んでたおじ様が驚いてるじゃないか。

「本気も本気!オレ、アキラと結婚出来なかったら一生独身でいるから」

「ヒカル…お前…」

おじ様が少し悲しそうな顔をしている気がする。
すみません…僕のせいで。

「進藤君……」
「はい」
「私が君達の結婚を反対すると思うかね?」
「お父さん……」


「アキラをよろしく頼むよ。気が強くて、料理音痴だが…」

お父さん、料理音痴は余計です!

「はいっ!ありがとうございます」

進藤は気にしてないみたいで、お父さんに頭を下げていた。

ありがとう!お父さん。






「お母さん…いつまで引き篭もってる気ですか?」

お母さんは家事を放棄した日から、ずっと部屋に引き篭もっている。
僕にも進藤にも会わないように生活していて、食事は進藤のおば様が面倒を見てくれていた。

「明子さん…オレ達結婚するんで機嫌直してくれません?」

「えっ?今、なんて?」

進藤の言葉で漸く部屋の障子が開いた。

「明子さん、アキラさんもください」

お母さんはが出てきたところで、すかさず進藤がお父さんに言った言葉と同じ事を言った。
お母さんが引き篭もったお陰で、同じセリフを2度も言わないといけなくなった進藤に、ちょっと



「ヒカルさん、本気なの?」
「はい」
「本気なのね!私はこの日をどれだけ待ちわびたことか……ありがとう…ヒカルさん」

お母さんは進藤に抱きついて嬉し泣きしている。
この日で、迷惑なお母さんの引き篭もり生活は終わった。

ところで、お母さん…進藤からいい加減離れてください!!









「進藤……」
「うん?」
「後援会の人達や藤ノ宮さん、僕との結婚諦めてないみたいなんだ」

食事会も両親が抜きのお見合いみたいだったし…。

「後援会や藤ノ宮さんが納得するまで、説得するしかないか。先生も許してしてくれてるし」
「もし、許してくれなかったら?」

ちょっと不安になって訪ねてみると…。

「駆け落ちでもする?」
「えっ?」

進藤からそんな言葉が出ると思ってなかった僕は、ビックリして固まってしまった。

「……冗談だよ」

そう言って、進藤は笑う。
……ビックリした……。
冗談でそんなことを言わないで欲しい。



でも…本当に冗談だったのかな?
駆け落ちすると言った時の進藤は、真剣な顔をしていた気がする?
もしかして、本気なのか?
それを尋ねる勇気は僕にはない。
だから、なんとしても藤ノ宮さんに僕とのこと諦めてもらわないと。





「ところで、アキラさん…。オレのことはいつになったら名前で呼んでくれるのかな?」

そ、そんな……急に名前で呼べだなんて………。
どうしよう……。

それから、僕がヒカルと呼ぶまでヒカルは僕を解放してくれなかった。

「ヒカル」

1度呼んで見ると、なんだか嬉しくなってある自分がいた。






●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇






「お母さん、ヒカルは?」

「まあまあまあ、アキラさん「進藤」じゃなくて「ヒカル」って呼ぶようになったのね~www嬉しいわ…夢じゃないのね~www」

昨日の事で受かれてる上に僕のヒカル発言で、お母さんのテンションが更に上がってしまった。
進藤と言えばよかった。
うっかり、母さんを喜ばせてしまった。
しばらく、このテンションのままかな?

「ところで、ヒカルは?」

テンションが高いお母さんにもう1度尋ねた。

「ヒカルさんなら大事な用事があるとかで出掛けたわよ。そういえば、スーツ来ていつも以上に緊張した感じだったわねぇ」

「そうですか…」

昨日のあんなことがあって、奇跡的に2人ともオフなのに、僕を置いて出掛けるなんて……。
ヒカルのバカッ!

ちょっと、ムカついた。





でも、用事ってなんだろう?
スーツ着ていく用事なんて棋院関係以外であるか?

「スーツ来ていつも以上に緊張した感じだったわねぇ」

お母さんの言葉が頭の中で復唱された。

スーツを着て、いつも以上に真剣な表情か……。





まさかっ!
1人で藤ノ宮さんの所に行ったのか?

ふと思い至って、僕は慌てて池を飛び出した。

僕の予想外外れてる事を祈りながら…。








●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇






「塔矢…アキラさんとの結婚、諦めてもらえませんか」
「嫌だと言ったら?」
「諦めてもらうまで粘ります」
「では、君がプロ棋士を辞めれば、結婚を諦めると言ったらどうする?」





「ヒカルっ!」

部屋に入ると、ヒカルとスポンサーの藤ノ宮さんが向き合って立っていて、どこか冷たい空気になっているような?
何があった?

「ア、アキラ?どうしてここに…」

ヒカルは急に僕が現れて、ビックリしてるみたい。

「お母さんに用事なんて嘘ついて…。最初は僕も騙されかけたけど、気か付いて良かったよ。どうして一緒に行こうって言ってくれなかったんだ?」
「ごめん……」

お見合いをすることになったのは僕で君じゃない。
だから、君が謝る必要はない。
謝るなら僕で、君がどうしても謝りたいというなら僕と2人でだろう。

「塔矢さん。ちょうど良いところに来てくれた。今、塔矢さんとの結婚を諦めると話していたところなんだ。進藤君がプロを辞める条件でね」
「えっ?」

進藤がプロを辞めることが、結婚を諦める条件?
なに…それ…。

「さあ、進藤君、答えを聞こう」

僕は進藤の答えをドキドキしている。
まさか、プロを辞めるなんて言わないよね?

「辞めます!辞めてアキラと結婚をします。碁はプロでなくても打てるけど、アキラは1人しかいないから」

ヒカル……。
言わないでと願った言葉を、あっさり言ってしまう。
君はプロでいることより、僕を選んでくれるのか。

「さあ、塔矢さん。君はどうする?君が私と結婚すれば進藤君はプロのままだ」
「………」

確かに、この人と結婚したらヒカルはプロとして生きられる。
でも、僕とヒカルが一緒にいることは出来なくなる。
ヒカルは僕の為にプロを辞めると言ってくれた。
なら、僕だって。

「僕はヒカルを愛しています。だから、貴方とは結婚出来ません」
「進藤君がプロでなくなっても良いのか?」
「はい、碁はどこでも打てるけどヒカルは1人だから」

僕が好きで愛しているのはヒカルだから…。
ヒカルと離れることになるかもしれない…という…あんな恐ろしい思いはしたくない。

「アキラ…お前…」
「良いんだ。ヒカルが僕を選んでくれてくれて嬉しいから…」

昔の僕なら考えられなかったことだけどね。
ヒカルが僕を変えたんだよ。





「は~~あ………ようやくくっついてくれたか」
「えっ?」

藤ノ宮さんの溜め息と言葉に唖然とする僕等。

くっついたって、なに?
どういうこと?

「実は私は進藤君…君のファンてでね…」
「えっ?」

藤ノ宮さんがヒカルのファン?
嘘?
僕もヒカルも驚いて顔を見合わせる。

「私から見ても好き合ってる2人なのに、全くくっつく気配がないものだから、荒療治に出てみたのさ」

それが、お見合い話話だったらしい。
実は、後援会と棋院から持ち込まれた話で、僕とヒカルを進展させる為に乗ったそうだ。
なんですか!それ……。
お見合い話が出る前にヒカルと付き合い始めていたのに、お見合い話のお陰で、僕とヒカルの仲が危なくなったというのに……。

ふざけるなっっっ!!

「ただ…塔矢さん所の後援会が、けっこう本気で困ったけど。進藤君と万が一あったら困ると焦ってるみたいだね」

そうですね…うちの後援会は進藤のことがお気に召さないので。

「そこでだ、私が進藤君の後援会をに作ろう」
「えっ?」

もう何度か解らなくなってきたヒカルとの顔見合せ。

藤ノ宮さんの発言に僕もヒカルも唖然とするしかない。
なんなんだ?この展開。

「そしたら塔矢さん所の後援会や棋院にも、文句言われなくなると思うよ。大会のスポンサーもやるし」

確かに、藤ノ宮さんがヒカルの後援会を作ってくれたら、うちの後援会は何も言えなくなりそうだけど。

「……ホントに良いんですか?」

ヒカルが不安そうに尋ねた。
急展開過ぎて、不安になるのも解るよ。

「ああ、そのかわり2人で、囲碁界を盛り立ててくれよ」
「はいっ!ありがとうございます」

僕と進藤は、藤ノ宮さんに頭を下げた。





「まさか、藤ノ宮さんがオレのファンだったなんてな」
「そうだね……」

なんか…どっと疲れた…。
もう休みだから、ヒカルどデートしたいな…と思っていた朝の気持ちは消えた。
こういう時は、ストレス発散に一局打つに限る。
よしっ!

「ヒカル、これから打ちに行くぞ!」

ヒカルは、全然違う事を考えていたみたい。

「え~~~どうせならホテルとか行かない?」

「…………////」

なななななにを言い出すんだ!!
だいたい誰のせいで、僕がこんなに疲れたと思ってるんだ。
僕の問題なのに、君が勝手な行動するからだろ!

「オレ達、恋人になってからそれらしいこと1回しかやってないし」

……確かに。
僕も朝まではデートしないな…とか思ってたし。
でも、今日はヒカルの単独行動で疲れたから、まずは一局付き合ってもらうことにする。

「そんなの知るか!行くぞ」

僕はヒカルを引っ張るようにしながら、碁会所向かった。






●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇






「2週間後、開けといてね」

藤ノさんとの事が解決して2日後、またお母さんかが何か言い出した。

「何故?」

「アキラさんとヒカルさんの結婚式よ」

その場にいた人間全員が、お母さんの言葉を理解するのに、軽く1分はかかったと思う。





「えーーーーーっっっ!!」





2週間後???
いくらなんでも無茶ですよ!
というか、また結婚なんてそんな……。

「あ、あの明子さん、まだ結婚は速いかと……」

うん、ヒカルもそう思うよね。

「あら、ヒカルさん。この間に私達に「アキラをください」って言ってくれたじゃない」
「それは…言いましたけど…。まだ恋人気分を味わいたいかな…なんて」
「あら、そんなもの結婚してから味わえば良いじゃない」

ヒカルの意見は、お母さんに一蹴されてしまった。

「それに、さっさと結婚しておかないと、またお見合い話が来るかも知れないし」

そこに、お父さんの諦めの発言が……。

「アキラ…進藤君、諦めなさい…。こうなったら明子は誰も止められない」

「……………」

こうして、僕達は2週間後に結婚式を挙げることになってしまった……。


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