「進藤が僕の傍からいなくなるなんて嫌だよ……」
塔矢の悲しそうな声が頭の中でグルグル回ってる。
オレだって嫌だよ……。
念願叶って、両思いになったのに別れるなんて……。
あんなに辛そうに泣くぐらいなら、なんでお見合いなんか受けたんだよ。
棋院と後援会に言われて断れなくなったのも解るけどさ……。
バカだよ……。
親父とお袋にも塔矢の家を出ようって言われた。
これからも、塔矢には後援会からジャンジャンお見合い話が来るだろうから、俺達家族は家を出た方か良いと、俺達がいたら上手くいくお見合いも上手くいかないだろう……って。
オレと塔矢が結婚するってのは考えてないんだよな…。
いや、付き合いを報告した時は考えてたと思う。
でも、今回のお見合い騒動で家の違いを感じて、諦めたみたいだ。
「ヒカルの番だよ」
「えっ?」
あかりに声で、オレの思考は現実に戻された。
あかりに指導碁を頼まれて、碁会所で打っていたんだった。
「ねぇ…ヒカル……」
「うん?」
オレは次の一手をどこに打つか考えながら、軽く返事をした。
「塔矢さんのこと諦めて私と付き合わない?」
「えっ?」
碁石を持つ手が止まる。
「何言い出すんだよ…急に…」
「急にじゃないよ…。塔矢さんお見合いするんでしょ?」
「なんで?あかりが知ってるんだよ…」
どこから漏れた?
まだ世間には知られてない筈だぞ。
「お母さんとおばさんが、電話で話してるの聞いちゃった」
お袋…いつもいつも…あかりのとこに情報漏洩するの止めてくれよ。
無意識なんだろうけど……あかりのおばさんと仲良いからな~。
「お見合いじゃなくて食事会な」
今回はお見合いじゃなくて、あくまで食事会だ。
けっしてお見合いじゃない。
「塔矢さんは孤高の人ぽいし、プライド高そうだし、ヒカルには合わないと思う」
「だから、お前と付き合えって……?」
「……うん」
今、オレ、あかりのことを凄い冷めた目で見てると思う。
冗談しゃない!
塔矢のこと、よく知らないお前に言われたくない。
確かにプライドは高いけど、可愛いところもあるんだぞ。
お前は知らないけどな、塔矢はオレは恋人になったんだ。
「ごめん……無理だ…」
塔矢が好きなのに、あかりと付き合うなんて無理だ。
「もし塔矢さんが結婚したらどうするの?」
「そしたら、一生独身かな」
「ヒカル…」
あかりが辛そうな顔でオレを見てる。
悪いとは思うけど、自分の気持ちに嘘はつけない。
「だから、もう2度とこんなことは言うなよ」
やっぱり、オレは塔矢が好きだ!!
諦めるなんて出来るかよ!
棋院や後援会を敵に回しても諦められるかよ!
始めてあった時から好きだったんだからな!
オレは覚悟を決めた。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
家でいうのが恥ずかしくて、最寄り駅で塔矢が出てくるのを待った……。
「お帰り。スポンサーとの食事会楽しかったか?」
「君も藤崎さんと楽しそうだったね」
「見てたのか」
「たまたま見かけたんだ」
楽しそうって……頭の中はお前の事で一杯で空返事だったんだけどな、
「……………」
「……………」
あ~~~また余計なことを言ってしまったぁぁぁ。
場の空気がぁぁぁ……。
……気を取り直して……。
「塔矢……じゃなくて……アキラ、オレと結婚してください!!」
進藤ヒカル一世一代のプロポーズ!!
「………えっ?」
おい……ここで、そんな間抜けな顔をするなよ…。
「だ·か·ら!結婚してくれって言ってんのっ!」
「本気?」
「ああ…」
こんなこと、冗談で言えるかっ!
「決めたんだー棋院や後援会を敵に回しても、お前と結婚するって!」
「もうダメかと思ってた。謝ろうとしても避けられるし…」
そう言って、泣き出す塔矢。
あ~~それは…恋人になった途端にお見合いを受けたお前に腹が立って、ちょっとひねくれてました。
覚悟も出来なくて、諦めるしなないって思ってたしな。
「アキラ…返事は?」
ここで、振られたらたちなおれないけど…。
「はい」
ヤッターーーッッッ!!!