「進藤君にも心配をかけたね」
「ビックリしました。身体の方はどうですか?」
「もう大分いいよ」
僕は今、進藤と一緒に一緒にお父さんのお見舞いに来ている。
病室に入ると、進藤のご両親もいた。
お父さんが倒れたと聞いた時は生きた心地がしなくて、病院に着くまで不安で仕方なくて病院がとても遠く感じた。
病院に着いて様態を確認すると、疲れが溜まってた為の軽い発作で命に別状がないことが解り、ホッとした僕はその場に進藤が側に居てくれて良かった。
「ところで、アキラさんとヒカルさんの雰囲気が、いつもと違うように感じるのだけど……何かあったの?」
「…………っっっ!!」
………お母さん、普段はのほほ~んとしてるのに、どうしてこういう時だけ鋭いんですか。
これはもう正直者に話した方が良いかもしれない。
「えーっと、オレ達…一応恋人というポジションにおさまりまして……」
進藤も同じ考えだったみたいだ。
伊達に半年一緒に暮らしてないってことかな。
「え―――――っっっ!!それは本当なの?ヒカルさん」
「ええ、まあ……」
……恥ずかしい……。
「まあまあまあ……おめでとうヒカルさん」
「……ありがとうございます」
お母さんも進藤のこと応援してたから嬉しそう。
僕の人生勝手に決めるな!
……って、思ってたけど、お母さんには解ってたのかな。
「で、お式はいつにするの?」
「…………っっっ!!」
………お母さん
お父さんや進藤のご両親が固まってます。
「い、いや、さすがにそれはまだ…恋人になったばかりだし……もう少し恋人の時間を楽しみたいんで」
「そう……残念だわ」
「明子…いくらなんでも気が早い」
お父さんがお母さんを諌めるよう言う。
そんな驚かすようなこと言って、またお父さんの具合が悪くなったらどうするんですか。
「アキラさん……こんなバカ息子で良いの?考え直すなら今よ」
「なに言い出すんだよっっ!!明子さんと2人してオレ達をくっつけようとしてたくせに!!」
「それはそれ、これはこれよ。いざ恋人になると、アンタには勿体ない気がしてねぇ」
「お袋っっっ!!」
おば様、進藤に容赦ないな。
その後、病室は明るい空気に包まれた……。
この調子なら、お父さんもすぐに元気になれるだろう。
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「えっーお前等、付き合うことになったのかっっっ!!」
「和谷、五月蝿い!」
……僕は皆に報告するつもりはないと思うんだけど、僕と一緒にいる時の進藤が顔が緩みまくっていた上に、幸せオーラ全開で歩いてたから……和谷くんに誘導尋問されてあっという間に白状することに。
……僕も嬉しいから気持ちは解るけど、往来であのデレ~~~ッとした顔は止めてほしい。
……恥ずかしい。
「半年前が嘘みたいだな……」
和谷君がしみじみと言う。
確かに……。
半年前、僕はこの場所で進藤を盛大に振った。
あの時の僕は、自分が進藤を好きだなんて全く
「良かったね!塔矢」
そう言って、奈瀬さんは喜んでくれる。
思えば、名瀬さんのアドバイスがなかったら、気付いてなかったかも。
「色々、有り難うございました」
「何言ってるの、これからじゃない。まあ、進藤は塔矢一筋だから大丈夫だろうけど」
今度、ランチでも奢ってね~と奈瀬さんは笑った。
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「えっ?お見合い?」
「本来なら塔矢先生に話を通してから判断してもらうのが筋なんだが……」
新たなスポンサーが現れたらしい。
ただし、スポンサーになる条件が僕とのお見合いらしい。
この不景気にスポンサーに付いてくれる企業が現れるなんて有難いことだけど、なんで僕とのお見合いが条件なんだ。
更に相手の名前を聞いて劃然とする。
(もしかしたら、これはお見合い)
そういうことには疎い僕だけど、囲碁界のスポンサー事情は解る。
これは、お見合い=結婚になるパターンかもしれない。
「えっ?アキラ先生にお見合い話が……」
「そうらしいよ…。塔矢先生があんなことになったから、早く身を固めて貰った方が良いんじゃないかって後援会が言い出したらしくて……」
「身を固めるって……アキラ先生、まだ18になったばかりじゃない。しかも進藤先生と付き合い始めたって噂もあるのに……」
「しかも、アキラ先生との結婚を条件に棋院のスポンサーにもなってくれるって話らしいよ……」
「それって……酷い……」
僕が棋院の役員達から、お見合いの打診を受けていた頃、進藤が事務の女性職員の話を聞いていたことを、僕は知らなかった。
役員達との話が終わって棋院を出ると、進藤がいた。
「お前、見合いの話来てるんだって」
どうして知ってるのかと聞けば、事務の女性達が噂してるのを聞いたらしい。
僕は進藤に見合いを受けたことを話した。
そると、進藤の顔がみるみる険しくなっていく。
「お前はそれで良いのかよ」
進藤の声が今までにないくらい低くて、少し怖い。
僕がお見合いを受けてしまったことを怒ってるんだ。
「お見合いしても断ればいい」
「相手は由緒正しい家柄で、政界にも顔が効く。そんな奴のお見合いを受けるってこととは結婚まで行くかもしれないじゃないか」
「進藤もスポンサーのそういう所、解るようになったんだ」
進藤に痛い所を突かれて、思わず憎まれ口を叩いてしまう。
それが、進藤の気持ちを逆撫でするの解っていているのに……。
「本気で言ってるのか?」
対局中に見せる進藤の鋭い眼差しが、僕の心を射抜く。
そんな場合ではないのに、カッコいいと思ってしまう僕。
「オレ達、両想いに…恋人になったんじゃなかったのか?」
そうだよ……。
両想いで恋人にだよ!!
好きだよ!!
でも、囲碁界の為にと頼まれると断れない……。
「お前って何があっても囲碁を1番に考えるのは変わらないな」
そう言って、少し悲しそうに笑う進藤。
「ごめん…ごめんね……進藤」
僕は進藤に謝りながら泣いていた。