進藤が僕を庇って怪我をした。
足の骨折で全治3ヶ月ぐらいらしい。
手でなくて良かった…と思ってしまう僕は、進藤自身よりも進藤の碁が大事なんだろうか。
手術が終わって、進藤は麻酔が効いて眠っている。
それにしても…よくあの場に来てくれたな…。
料理のくじ引きの時もそうだけど、進藤って僕が困ってる時に現れるようになったよね。
女流の人に押されて、支える物がなくて焦ったと同時に聞こえた進藤の声。
「……………ッッッ!!!」
その後感じた衝撃……。
落ち着いてみたら、進藤が僕の下に居て、意識がない???
「進藤~~~っっっ!!!しっかりしろっっっ!!!」
女流1人が呼びに来たスタッフによって、進藤は病院に運ばれた。
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「塔矢が好きだと公言してるけど、進藤はモテるんだから胡座かいてちゃダメよ」
進藤のお見舞いに来た奈瀬さんが、突然僕にそんなことを言い出した。
胡座…なにそれ?
どういう意味?
と、思ってたら言葉に出ていた。
「どういう意味ですか?」
「塔矢………アンタ気付いてないの?」
(進藤が気を失ってた時、あれだけ必死になってたのに…)
「じゃあ、私からのアドバイス。塔矢を差し置いて進藤が他の女と打ってる所想像してみて」
進藤が僕を差し置いて、他の女流と打つ……?
あり得ないない!
そんなことは、許さない!
進藤は僕のライバルだ!
「あと、もう1つ。碁は関係なく進藤の隣で仲良くしてる女を見てどう思うか」
進藤と仲良くしてる女が隣にいる……。
う~~ん……想像出来ない…どうなんだろう?
「まあ、進藤は塔矢が独占してるから、そんな所見ることもないだろうけど。もしあったら、その時自分がどう感じたかしっかり考えた方がいいわよ」
後悔しないようにね……。
と、言って奈瀬さんは笑う。
「そもそも塔矢が進藤を独占したから、今回の事件も起きたんだし。もう1回言っとくけど、進藤はモテるのよ」
……奈瀬さんは僕に何が言いたいんだろう?
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進藤が骨折をおして手合いに復帰した。
もう少し静養するという話もあったが、骨折は足だけで碁を打つのには問題がないからと、進藤が復帰を希望した。
入段してすぐの頃、休んで遅れを取ったから、もう休みたくないらしい。
それから数日後。
今は手合いの日は一緒に棋院に行っている。
同居してることは芦原さんのせいでパレたし。
僕が一緒に行くと言ったら、進藤がオバケを見るような顔をしてたっけ。
「夫婦同伴出勤も板についてきたな」
「なにってんだよ!和谷」
「照れるな…照れるな…まんざらでもない癖に」
「………………///」
進藤が赤くなって拗ねている。
夫婦同伴出勤て……。
……もう慣れたけど。
ちなみに僕は芦原さんに……
「あのアキラがかいがいしく……進藤の世話をして……アキラに春がくるかもな」
……と言われている。
そんな芦原さんを、緒方さんが怒鳴り散らしたとか……いないとか……。
進藤の席まで連れていってから、僕も自分の席に付く。
昼休憩は、僕は食べないけど進藤は食べるので、進藤の食事に付き合う。
食事は和谷逹と一緒に行くからいい。
…と、進藤は言ったけど僕のせいでこんなことになったし、ちゃんと面倒見ないとお母さんになに言われるか…。
それに和谷君逹も、進藤の世話は塔矢の役目…と言わんばかりに静観している感じだ。
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「ヒカル」
「あかり、どうしたんだよ」
家に帰ると玄関前に何故か藤崎さんがいた。
「骨折したって聞いて心配になって…」
「それで、ここまで来たのか?」
「うん……」
「そっか、ありがとな」
進藤……なんだか嬉しそう……
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……
なんか……気分が悪い……モヤモヤする。
「進藤の隣で仲良くしてる女を見てどう思うか」
奈瀬さんの言葉を思い出す僕がいた……。