「塔矢、飯…で…き、た?」
オレが台所に入ると、台所がとんでもないことになっていた。
「しししし進藤~~~~!!」
「…………………」
うわ~~~塔矢のあんな顔初めて見た。
どんな顔かって、上手く説明出来ないけど、悔しそうな…辛そうな…もう何か助けて!と訴えてる感じ。
しっかし……どこをどうしたらこうなるんだ。
「塔矢、お前って……もしかして……料理出来ない?」
「…………ッッッ!!!」
うわ~~そんなに睨まなくても良いじゃないか。
ライバルのオレに弱み握られて悔しいってか。
でも、これはそんなこと言ってる場合じゃないぞ。
片付けないと、飯どころしゃない。
「とりあえず、これ洗って」
「えっ?」
「え?じゃなくて…まさか洗い物も出来ないとか…」
「…………」
マジですか…塔矢アキラさん。
ちょっと、いや…ビックリなんですけど。
昼間、塔矢が慌てた理由が分かったよ……。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「ヒカル、同窓会に行ってくるからアキラさんと3日間、2人でお留守お願いね」
オレが塔矢邸に帰ってたら、入れ違えにオレの両親と塔矢先生達が出掛けようとしているところだった。
3日も出掛けるなんて聞いてないぞ。
3日、塔矢と2人きり……。
「食事はアキラさんお願いね」
「ちょ、ちょっと待ってください…お母さん」
うん?塔矢メチャクチャ慌ててないか?
なんで?
塔矢の料理食べれるチャンスか…。
楽しみだぜ。
……と、思ってたら…
「進藤、店屋物にしないか」
と、しきりに訴えてくる、
「何ってんだ?明子さんの言う通り、お前が作ればいいじゃん」
「………そうだけど……」
なんか歯切れが悪い…。
「作りたくない理由でもあるわけ?」
「そ、そんなことないけど…」
「じゃあ、頼んだぜ」
その結果がこれ。
……明子さん…知ってましたよね?
多分、お袋もいれ慈恵してるよな…
嵌められた……。
はあああ~~。
「……ここはオレに任せて、晩飯出来るまで棋譜整理でも検討でも何でもしてろ」
オレは塔矢を追い出して、大掃除と飯作りに勤しんだ。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「進藤って料理出来たんだ……」
オレの作ったカレーを一口食べて、塔矢が
「まあな。一人暮ししたいって言ったら家事全般こなせるようになることって条件出されて仕込まれたからな」
それは…それはスバルタで…大変だった……。
オレ、家事関係では信用ないんだよな……。
「しかしお前が料理出来なかったなんてな。囲碁関係者やファンが知ったら大騒ぎだな」
囲碁関係者の間では、料理も出来て家事も出来る…将来の良いお嫁さんになると言われている奴が、料理や家事が出来ないなんて知られたら……。
塔矢も知られたくないだろうし……。
よしっ!
これを使ってこの間のお返しだ。
あの写真は絶対返してもらわないと!
「棋院で言いふらすつもりか?」
「言いふらされたくなかったら、あの写真返せ」
「……分かった……」
この日、オレは黒歴史の写真を返してもらうことに成功した上に、塔矢の胃袋を掴んだみたいだ。