(右下の黒を殺しに来てますね。そうはさせませんよ)
皆さん、お久し振りです。藤原佐為改め進藤彩(さい)です。
只今、行洋と真剣勝負の真っ最中なんです。
(逆に左下の白を殺しましょうか)
そうは思っても、簡単にそうさせてくれないのが塔矢行洋という棋士。
(流石ですね…)
でも、まだ殺せる道はあります。
可能性がある以上、私は諦めませんよ。
バチ、パチ、パチ、パチ
(そうきますか。それなら…)
バチ、パチ、パチ、パチ
静かな和室に碁石の音だけが1時間程響いた後…
「ありません】
「ありがとうございました」
行洋の投了で終局しまた。
今日も良い碁打てましたね。
「引退して大分経つのに益々強くなってません?」
「その言葉、そっくり返そう」
「そりゃまあ、新しい棋譜を見て日々勉強に励んでますから」
「それで風邪を引いていたら駄目だろう」
「あれは、行洋が面白い棋譜をくれたのが悪いんてす」
「だか、体調管理も大事だぞ。もう幽霊ではないのだから」
その点は本当に反省です。
アキラのスケジュールが更にハードになってしまいましたし。
「佐為を私の孫として転生させてくれるとは神に感謝だな。お陰で佐為といつでも打てる」
それは私も同感です。
「行洋はこういう現象を信じないと思っていました」
ヒカルと秀策に憑いていた幽霊の生まれ変わりだなんて。
真面目そうだから非科学的な現象は信じそうにないと思ってましたけど、碁絡みになると寛容になるのでしょうか。
「あの棋力を見れられたら信じるしかないだろう」
ですよね〜。
初めて19路盤を使って9子置きで行洋と打った時、あまりの嬉しさに彩として打つのを忘れてしまって…本気で打ってしまったんですよね。
行洋に指摘されて気付いたんですが、既に遅しで誤魔化しようがなくて開き直って全部話したら、なんと信じてくれました。
それから2人だけの時は本気で打つようになったのですが、これがヒカルやアキラと打つ時と違った緊張感があって楽しくて♪
「緒方君で遊ぶのは止めなさい」
と言われるのは嫌ですけど。
何と言われても止めるつもり全くありません。
あと、バレてすぐに、プロになることを勧められましたね。
流石に5才はありえないから10才になったらどうかと。
「こんな所で私と打ってるよりプロになった方が良いと思うのだが」
「行洋と打ってるだけで楽しいですよ。それに私は、プロになるより囲碁教室を開きたいです。そしたら神の一手を目指さる人間を見つけられる可能性が増えるでしょう」
「自分で目指さなくて良いのかな?」
行洋の言うことは尤もなんですが、ヒカルに教えてるうちに教える楽しさを再認識したのですよ。
神の一手はも諦めずに目指し続けます。
「だから、教室を出す時は助けてくださいね。おじいちゃん」
と、行洋に言ったら行洋は暫く固まってました。
(えっ?お願いしただけなのに何故かそうなるんですか?)
謎です。
大分経ってから知ったんですが、あの時の私、塔矢並いやそれ以上の笑顔だったらしく…。
私の笑顔で、アキラの幼い頃の無邪気な笑顔を思い出して固まっていたらしいです。
行洋が自分より先に私が佐為だと知ったことがヒカルにバレたら……ゴネるかも?と、当時思った私は、黙ってくれるようにお願いしたら了承してくれたばかりか、ヒカルとアキラに話した今も知らない振りをしてくれて本当に有り難いです。