今日も虎次郎を立派な碁打ちにするために、張り切って頑張りますよ。
「嫌だ」
「えっ?なんて言ったんですか?」
「嫌だって言ったんだ」
「どうしたんですか…急に…」
「オレ、囲碁嫌いだから」
えっ…今、虎次郎はなんて言いました?
…………………
………………
……………
…………
………
……
碁が嫌い。
…って言いました?
嘘でしょ?
碁が嫌いだなんて?
何かの間違いに決まってます。
「ねーちゃんが、打ちましょう!打ちましょう!…って言うから仕方なく打ってただけ」
何かの間違いだと思いたい私の気持ちを打ち砕く、虎次郎のキツい言葉か飛んできて凹む私。
「オレ、これからは碁なんか打たないから」
「そんな~~虎次郎を立派な棋士にするのが、私の夢なんですよ」
「そんなの、ねーちゃんの勝手だろ。ねーちゃんが棋士になれば良いじゃん。ともかくオレは碁が大嫌いだ!!」
そう言うと、虎次郎はゲームに集中してしまって…それからは全く打ってくれなくなりました。
「だから言っただろ。あまり根を詰めるなって」
ヒカルのツッコミも耳に入らず、ショックのあまり放心する私。
「そんな~虎次郎~~」
叫んだ後、私の意識は途切れたのでした。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「どうしましょう…どうしましょうたら、どうしましょう」
目が覚めてハニック状態のままベッドから飛び降りた私は、気が付くとダイニングに駆け込んでました。
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
「たたたた大変なんですよ!」
「落ち着けよ…佐為」
「虎次郎が碁はきらいだと、もう打たないって言い出して…」
「は?何言ってんだ?虎次郎は赤ん坊だろが」
あっ…………
……………
…………
………
……
そういえば……あれは夢…でしたね…。
絶対見たくない悪夢を見てしまって、少々パニックになってしまって、夢と現実が解らなくなったようです…。
恥ずかしい…。
そそうですよね…。
虎次郎が碁を嫌いになるなんて、考えたくもありませんから。
「虎次郎に碁が嫌いと言われる夢を見まして」
「それで朝から大騒ぎかよ…」
その顔は呆れてますね。
ヒカルの視線が痛いです。
「まっ、このままのノリで突っ走ったら正夢になるかもな」
「えっ……」
「お前の碁への情熱は正直キツいぞ」
えっ?
「オレも最初はキツかったもんな…。碁なんか興味もなかったし。今はお前に負けないくらい囲碁バカだけどさ」
あの頃は碁が打てる嬉しさで、少々無茶をしたような…?
「正直、アキラが居なかったら碁なんて続けてなかったかもな」
何気なく惚気てくれましたね…ヒカル。
アキラとライバルになって結婚出来たのも私のお陰でしょ。
私がいなかったら、アキラに見向きもされ…あっ、その前に出会いもなかったでしょうね」。
感謝してほしいぐらいです。
「あんまり彩を苛めるの止めたら」
朝食を運んでいたアキラが、ヒカルを嗜めてくれて、貴方はなんて優しいんでしょう。
「別に苛めてないぜ。昔を思えばこれぐらい許されると思う」
なんですってっ!覚えてなさいよ!ヒカル。
「アキラに似たら碁の道一直線!かもしれないけど、オレに似たらそうならないかもしれないから気を付けろよ」
確かに出会ったばかりのヒカルは、碁に全く興味がなかったですからねぇ…。
「…………」
……虎次郎が囲碁嫌いになるなんてあり得ません。
数年後、虎次郎が棋士になったかどうかは……また機会があればお話ししようと思います。