突然だけど、今回はヒカルと誕生日が近い日に生まれた虎次郎の話をしようと思う。
【命名 虎次郎】
と書かれた半紙が虎次郎のベビーベッドがある所、頭の上の壁に2枚並んで貼ってある。
ヒカルが書いたものと、彩が書いたとの。
どうして、2枚もあるのかというと…ことの始まりは、虎次郎が生まれて2日後に起こったことが原因で…。
「下手ですね…」
ヒカルが筆で書いた渾身の一作を見た彩の容赦ない一言。
「私の時もこんな下手だったんでしょうか…」
うん、そんなに変わらないかな。
「昔、あれほど字を練習しなさい!と言ったのに…」
一緒に居たから字が下手なのも見てたんだね。
習字もダメだったとか…。
よく扇子にサイン頼まれてるけど、正直ね…。
「私が書き直しましょうかねぇ」
「なんでだよ?」
「字の下手なヒカルにお手本を見せるのは、師匠として当然でしょ」
「………」
彩の言葉に反論したヒカルだけど、言い返されて悔しそうにしている。
その後、彩は墨を磨り鮮やかに【命名 虎次郎】と書き上げた。
(平安時代に生きてただけのことはあるな)
筆使いが鮮やか。
書き上げた字をヒカルに見せて、扇子片手にドヤ顔するの彩の姿が子供みたいで…あっ、いや実際子供なんだけど中身が1000年生きてた大人には見えないってことだよ。
ちなみに、彩が持ってる扇子は彩がsaiと解った後にプレゼントしたそうだ。
そんな訳で、何故か数ヵ月経った今でも2枚飾れている。
ヒカル曰く、碁同様、いつか彩を負かす為に自分を奮い立たせる活力源なんだとか…。
(大人げないな…)
ちょっと苦笑いしてしまう僕は、悪くないと思う。
そういえば、この話の後緒方さんが来てくれたのだけど、虎次郎の名前を見て言った言葉が、また彩を怒らせてしまったみたい。
「虎次郎か…。進藤の秀策好きも筋金入りだな」
彩の瞳が鋭くなったのを僕とヒカルは見逃さなかった。
緒方さん、また彩を怒らせましたね。
「オレ、知らな~~い」
ヒカルの顔を見たら、そんなことを書いてあるような気がしたし僕も知りません。
緒方さんは、これからも彩に遊ばれ続けるんだろうな。
頑張ってください…緒方さん。
その後、彩が率先して色々手伝ってくれるから、あっという間に手合いに復帰出来て、碁の関係者驚かせてしまった。
「彩ちゃんがアキラさんを助けてくれるのは嬉しいけれど、出番が減ってしまって何だか寂しいわ…」
と、母はぼやいているんだけど、彩と仲良く協力してくれてる。
彩が生ませた時以上に、ゆっくり出来て対局に集中出来るなんて、有難いけど母親して良いのかな。
あっ、そうそう。
彩による虎次郎への碁英才教育は、生まれて1週間後に、囲碁用語を聞かせること始まった。
いくらなんでも早すぎるような気がするんだけど…。
五月人形も母と2人で盛り上がって特注してしまったし…。
「舞い上がった彩を止めるなんて絶対無理!諦めるしかない」
と、ヒカルは言うけど、僕としては張り切り過ぎないで欲しいな。