(は~~~~~あ~)
彩がヒカルと仲良くしてるのは当たり前のことなのに、そんな2人を見て嫉妬するなんて…。
でも…あの時の2人は今までとは違う雰囲気というか…強い絆みたいな物を感じていた。
(なにを考えてるんだ?僕は…)
あの時も今も、僕は母親としてどうかしている。
一瞬でも娘に嫉妬するなんて…。
(家に帰り辛いな…)
あんな捨て台詞吐いてきちゃったし。
どうしようかと悩んでいたら、彩がホテルに来た。
迎えに来てくれたのかと思ったら…。
「今から打って」
僕の顔を見るなりそう言って碁盤の前に座る彩。
…流石は碁打ちの娘だと感心するやら…呆れるやら…。
「良いけど…てっきり迎えに来てくれたのかと思ったのに」
これで家に帰る口実が出来たと、ホッとしたんだけど当てが外れた?
「迎えに来たんだよ。でも、その前にお母さんに、どれだけ強くなったか見てほしくなって…。互いで打っても良い?」
「良いよ」
彩がどれだけ強くなったか見てみたいしね。
彩が握って、彩が黒で僕が白。
「「お願いします」」
……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……
対局が進むに連れて、僕は信じられない気持ちになった。
これは彩じゃない…。
この棋風は…まさか……。
目の前にいるのは娘の彩なのに、この棋風は彩じゃない。
しかも、この対進行はヒカルと初めて打った碁と同じだ。
(ヒカルに教えてもらったのか?)
不思議に思いながら、あの時と同じ展開にならないように打ち進めたけど、最後はあの時と同じようになって…。
「…負けました」
僕の中押し負け。
まさか、またあの感覚を味合うなんて…。
でも、どうなってるんだ?
目の前に居るのは間違いなく彩なのに、碁は彩じゃない。
「大丈夫ですか」
心配そうに僕を見つめる彩。
「Sai?」
「はい」
「彩じゃなくて、僕が言ってるのはSai…」
「解ってますよ。塔矢が言ってるSaiはネット碁のSaiだと」
「えっ?」
彩…だんだか急に喋り方と声が落ち着いたような気がするけど…気のせい?
「塔矢もあの時に比べたら、本当に 強くなりましたね」
「あの時?」
「ヒカルと初めて打った時ですよ」
そう言って、彩はニコニコと笑った。
「今から話すことは、信じて貰えないかもしれませんが…」
Saiが話してくれた。
自分の前世が藤原佐為という碁打ちで、人生を終えた後も神の一手を極めたいあまり、幽霊となってヒカルに憑いていたことを。
信じられない話で、思わす怒鳴りそうになったけど…彩の話を当時のヒカルの行動に合わせると腑に落ちる。
「信じられない話だけど…信じるしかないよ…」
石の持ち方が初心者なのに、棋力はプロ並みかそれ以上。
凄いと思えば、素人のような碁を打つ。
それはSaiが憑いていたからなんだね。
「は~~~~あ~良かった…。ふざけるな~~っ!…って怒鳴られるかと思ってましたよ…」
「ははは…」
…怒鳴りそうになったのは黙っておこう。
「ヒカルが、いつか話すって言ったのはSaiことだったんだね。出来ればヒカルから聞きたかったかな」
本人?から聞くのも悪くはないけれど、なんとなくヒカルから聞きたかった。
「そう!ヒカルったら酷いんですよっ!」
「えっ?」
「アキラが出ていったのは、お前が佐為だって打ち明けたせいだから、お前がなんとかしろっ!って言って、ロビーまで連れてきて放置ですよ。塔矢が部屋に入れてくれなかったら、どうなっていたことか…」
なんだってっっ!
中身は1000才以上だけど、見た目は8才の彩Saiを置いて帰っただと!!
「なにを考えてるんだっっ!ヒカルもSaiが戻ってきた…って浮かれてただろつ!」
それをSaiに丸投げするなんてっっ!!
「家に帰ろうと思ってたけど、予定変更!しばらくホテルに泊まるよ」
「それは良いですね…。私に丸投げした罰を与えるべきです!」
Saiが不敵に笑う。
僕達の意見は一致した。
案外、僕とSaiは上手くやれるかもね。
「彩も一緒に泊まろう」
「えっ、良いんですか?」
「当然だろ。彩は僕の娘になんだから」
「あっ、でも学校の荷物とかどうしましょう…」
「そんなものヒカルに持って来させれば良いんだ」
「それもそうですね」
僕が帰らない上に彩まで取られたら、ヒカルはどんな顔をするだろうか。
ちょっと興味ある。
それから、ヒカルについて色々な話をした。
「Saiは僕とヒカルの縁を結ぶために、ヒカルに憑いてくれたんだよ」
「塔矢…」
碁は1人では打てないからね。