「あ~もう!彩のヤツッ!相変わらず容赦ないし、口聞いてくれねぇし」
つわりによる体調不良で寝込んでたけど気分が良くなったから、今のうちに軽くなにか食べておこうかと部屋から出たら、ヒカルが不貞腐れていた。
「彩にかなり絞られたみたいだね」
「アイツ、昔から容赦ないからな…って、お前、起きてきて良いのかよ」
「大分楽になったから、今のうちになにか食べておこうと思って」
「ふーーん」
不貞腐れてはいるけど、彩に絞られた理由は判っている筈。
数日前の本因坊戦の挑戦手合い第6局で、ヒカルは負けた上に碁の内容が良くなくて彩を怒らせてしまったみたいだ。
プロは勝敗も大事だけど、碁の内容も大事だからね。
本因坊戦だし怒りも相当みたいで…。
…まあ、その前に僕達が喧嘩してヤキモキさせた上に、あんな碁を打ったから、彩の怒り大爆発したんだと思う。
「彩の機嫌を直そうと思うなら、次の対局で確り勝って本因坊を防衛することだね」
それで、機嫌か直る保証はないけどね。
全ては、ヒカルの碁の内容次第。
「は~~~あ…お前には優しく指導碁打つのに、オレには容赦なしなんだ?」
そんなの僕に聞かれても困る。
「君と初めて打った時は容赦なかったと思うけど」
今は幽霊時代の彩だと判ってるから平気だけど、当時はなにがなんだから解らなくてパニックたったんだからな。
「あれは、また碁が打てる喜びが勝ってたからですよ」
彩がひょっこり顔を出した。
「そのお陰であの後、オレがどれだけややこしい目にあったか…お前も知ってるだろ」
「アキラ、なにか食べますよね?」
「あ、ああ」
「虎次郎が生まれるまでは、なんでも協力しますよ。あっ、もちろん生まれてからも協力しますよ」
「有り難う」
「弟だから当然です」
「無視かよっ!」
いないものとして扱われるヒカル。
少し哀れかな。
佐為だと知った彩に、僕達は碁でまだ勝てない。
いや…碁も…といった方が正しいかもしれない。
「ヒカルも強くなってますけど、進藤彩として生まれ変わってから、バレないように益々碁の勉強をしてましたから、まだヒカルには負けません!」
ヒカルに佐為の生まれ変わりだとカミングアウトして、ヒカルに中押し勝ちした後ドヤ顔で言い放ったらしい。
僕が佐為のことと彩が佐為の生まれ変わりだと知ったのはヒカルより大分後だから、これはヒカルから聞いた話だ。
彩が佐為だと知らない人には手加減して、気付かれないように打ってるけど、真実を知ってる僕達には容赦なく打ってくる。
それでもヒカル曰く、僕には優しく打ってるらしくて、僕としては納得出来ない。
ちなみに世間でヒカルは、娘にメロメロで頭が上がらない父親として認識されている。
前世の記憶持ってます!…なんて言えないからね。
実際は、中身1000才以上の我が家で最強の娘かな。