ONE MORE TIME 05
(明子サイド)

「プロ棋士をやめたいんです」

アキラさんが突然プロを止めると言い出して、私も行洋さんも驚いたわ。
行洋さんなんて驚き過ぎて一瞬固まってたわね。

「どうしてやめたいのか話しなさい」
「……言えません」

このやり取りを繰り返すこと数十回。
私と行洋さんがどう聞いても教えてくれなくて、やめたいの一点張り。
もう!こういう所も、行洋さんにそっくりなんだから!

碁に全てをかけてきたアキラさんが碁をやめたいだなんて、余程のことがあったに違いなくて、だから親として理由を知りたいと思っていたのだけど…。
意外とあっさり知ることを出来たの。
渋るアキラさんに無理やり誘ってショッピングに出かけた時…。

「あれ、進藤さんじゃない?隣にいるのは…彼女かしら」

チラッとアキラさんを見ると辛そうに目を逸らして、すぐにでもここから離れたいという感じだった。

(まあ、そういうことなのね)

アキラさんの様子を見て私は、プロをやめたいと言い出した理由を一瞬で理解したわ。

(ホントに行洋さんそっくりね…)

容姿は私に似てるとよく言われるけれど、中身は行洋さんにそっくりなのよ。
あの様子だとアキラさんは自分に気持ちを進藤さんに言ってないわね。
自分で勝手に結論出して諦めてる感じかしら。
思わずため息が零れてしまったわ。

その日の夜、行洋さんにこの出来事を話したの。

「あくまで私の予想ですけど…。本当にあの時の行洋さんにそっくりでしたよ」
「そうか…」

行洋さんの後援会の関係者が私の父と知り合いで、何かのパーティーにさそわれて出席した時に出会って、私も行洋さんもお互いに一目惚れだった野だけど、別の日に私が別の男性といるのを見て、歳の離れた自分より良いと勝手に判断して、私から離れようとことがあったのよね。
その時の行洋さんも、さっきのアキラさんみたいな顔していて…。
本当に良く似た親子だわ。

「やめたいと言ってるのに無理やり続けさせるのも辛いでしょうし、暫く休ませても良いのではないですか?」
「そうだな。引退ではなく休場なら戻りやすいかもしれんな」

その後もアキラさんからやめたい理由は聞けなかったけれど、引退ではなく休場することで折り合いがついたけれど当然棋院は大騒ぎになって、行洋さんか色々手を回して黙らせていて…。
流石は囲碁界の重鎮。 引退しても力は衰えてないわね。

アキラさんから、囲碁関係者には自分の居場所等を秘密にしてほしいとお願いされたから、緒方さんや芦原さん、もちろん進藤さんにも秘密しているけれど…。
進藤さんが何度か家に来て…。

「塔矢先生が知らないわけがないですよね?」

行洋さん、対局しながら何度も聞かれてたわね。
でも流石はプロ棋士、ポーカーフェイスで知らない振りしてたわ。
私も聞かれたけど、頑張って知らない振りをしましたよ。

「アキラが勤めてる会社が新棋戦のスポンサーになるそうだ」

ある日、2人でのんびりお茶を飲んでいたら、行洋さんが新棋戦のことをを教えてくれた。

「あら、そうなの?」

私の予想だと、本因坊のタイトルを持ってる進藤さんは新棋戦に出場することになるでしょうから、アキラさんと再会するかもしれないわね。

(進藤さんイケメンだし客寄せパンダに、ちょうど良いものね)

もし再会したら上手く行ってほしい。

(だって、アキラさんと進藤さんってお似合いなんだもの)

それに、アキラさん進藤さん以外とは結婚しないと思うのよ。
だから、2人が上手く行くことを願ってるわ。



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