ONE MORE TIME 01
(アキラサイド)

「塔矢さん、この資料確認お願いします」
「解りました」

僕は19才の時にプロ棋士をやめた。
碁だけのことを考え生きてた僕が棋士をやめるなんて自分でもビックリだけど、あの頃の僕は納得出来る碁が打てなくなってスランプに陥っていた。
スランプだけならプロ棋士をやめなかったと思う。
その頃、進藤と和谷君の会話を聞いてしまったことが決定打になったんだ。





「あ〜〜〜彼女欲しい」

普段の僕なら気にせず通り過ぎていただろうけど、その時は「彼女」という進藤の言葉が気になったんだ

「お前には塔矢がいるだろ」
「塔矢?アイツが彼女?まさか!ライバルとしては最高だけど、彼女としてはナシだ!ナシ!」
「確かに彼女にたらキツそうだよな」
「そうそう」
そう言って、進藤と和谷君が笑っていた。
僕はショックを受けて、その場を立ち去った。

僕は進藤が好きなんだ。
告白するか悩んで進藤の誕生日に告白しようと決意したのに、告白前に失恋するなんてショックと絶望しかなかった。

何かが切れてもうどうでもよくなって、プロ棋士をやめようと思ってお父さんに話した。
お父さんからの説得で、引退ではなく休場扱いになってるけど戻るつもりは全くない。

それから実家を出て1人暮らしを始めた。
実家にいたら進藤が乗り込んでくると思ったし、進藤がいない所にいきたかったから。
その後、ある人の紹介で面接を受けて今の会社で働くことになって約2年、漸く仕事にも慣れたかな。





資料の確認を終えてホッとしていたら上司に呼び出された。

「うちの会社が囲碁のプロ棋戦のスポンサーになることになった」
「えっ?」
「そこでだ。塔矢さん、君にこのプロジェクトのメンバーに入ってくれないかな」

入ってくれないかな…というのは入れってことなんだよね。

は〜〜〜あ。

入社して1年と少し、初めて大きいプロジェクトに入れるのは嬉しいけど、よりによってプロ棋戦のスポンサーだなんて。
棋院の関係者に会うのは嫌だな。 特に進藤には会いたくない…。

気が重い…。




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