初恋 09
(アキラサイド)

「オレとばかり打って飽きないの?」

何を言い出すんだ?
僕が進藤と打ってて飽きる訳がないじゃないか!

「塔矢さんの回りにはプロが一杯いるんだし、その人達と打った方が良いんじゃ…」
「君以上の打ち手はいない!」
「そそうなんだ…」

はっきり言って、同世代や若手の棋士より、進藤と打っている方が得るものが多い。

「どうしたんだ?僕と打つのが嫌なのか?」
「嫌じゃないけど…塔矢さん強引だからさ…」
「すまない…」
「別に…もう慣れたから良いけどさ…」

パチッ、パチッ、パチッ、パチッ…。
パチッ、パチッ、パチッ、パチッ…。

「塔矢さんてスカートとか可愛い格好しないの?」

数手進んだ所で、また進藤が話しかけてきた。

「しないよ。対局はスーツで十分だし」
「えーーーっっ!!せっかくキレイなのに勿体ないよ」

そう言われても…。
僕だって興味はない訳ではないけど、着る機会がないんだよ。

「スーツ姿もカッコ良いけどさ、たまには可愛い格好した塔矢さんも見たいな…なんて♪」
「バカなこと言ってないで、対局に集中しろっ!」
「してるじゃん」

確かに…鋭い手を打ってくる。

「これからもオレと打ちたかったら、スカート姿見せてよ♪」
「何!?」
「見せてくれないんだったら、もう塔矢さんとは打たないよ」

碁石を持つ僕の手が止まる。

「しししし進藤~っ!それは僕への脅しか?」
「さあ、どうかな~?」

進藤の表情からは、本気が冗談か読み取ることが出来なかった。
そして、動揺が影響したのか、この対局は負けてしまった。

「………」

進藤と打てなくなるなんて、あり得ない。
進藤の言うことなんて無視すれば良い。
打ってもらえるまで、粘れば良い。

…と、色々考えて、やっと見つけた僕のライバルになる打ち手を逃したくない僕は、次に進藤に会う日に、タンスの肥やしになっていたワンピースを引っ張り出して着て出掛けた。
いつか着る機会があれば良いと思って、買っておいた服が、こんな所で役に立つなんて。






●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇






「スゲー似合うよっ!!」

ワンピースを着た僕を見て、瞳(め)をキラキラさせて喜んでくれる進藤にホッとした。

(これで、これからも打ってくれそうかな?)

それにしても…喜んでる進藤って…。

(可愛いな…)

僕を脅した時の進藤はどこに合いった?
それに、打ってる時の進藤は凄く格好良いのに、打ってない時は子供ぽっくて…、
こんな軽い男が、あんなに強いなんて信じられないよ…。





この日境に進藤は味を占めたのか、僕に色々リクエストしてくるようになったのだけど、可愛い感じの服に興味があったから、そんなに嫌ではなかったし、そうしたら進藤が喜んで打ってくれると思うと苦にはならなった。
まあ、何を着て行くか悩むことになったのだけど…。

(進藤と打てるなら、これくらい平気だ)











ちなみに、あの格好で父の碁会所に行くのだけど、そこで…ちょっとした騒ぎになってしまった…。

(スカートなんて制服以外着たことないからね…)

「しまったな…」…と思ったけど後の祭りで…。
しかも進藤との仲を誤解されて、否定するのが大変だった…。

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