「塔矢アキラと碁を打って来てください」
佐為に呼び出されて突然言われた。
藤原佐為はオレの碁の師匠。
じーちゃん行きつけの碁会所に佐為が来ていたのが縁で、オレは幼稚園の頃に佐為と出会い碁を教えてもらった。
「嫌だよ~。オレ、プロにはならないって言ってるだろ」
プロなんかと打ったららややこしいことになるかもしれない。
自分で言うのもなんだけど、オレ結構強いと思う。
同年代で、相手になるアマはいないと思う。
オレがプロになんかなったら、佐為が表に出ることになるし…。
「別にヒカルをプロにしようなんて思ってませんよ」
そう言って、佐為が微笑む。
「現役のプロに、ヒカルがどこまで戦えるか知りたくなったんですよ」
「なんで、急に」
今までプロと打てなんて言ったことないのに。
オレが自分から打った事はあるけどさ。
「とにかく、アキラと打って来なさい」
「えーっ」
「師匠命令です!」
普段は友達感覚で師匠ヅラしないくせに、自分が絶対やらせたい時は、師匠命令って言い出すんだよな……。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「あの…オレ、アキラ先生と碁を打つ約束をしていて…」
「ああ、君が進藤ヒカル君だね…」
オレの目の前に塔矢アキラ。
うわ~~実物、めっちゃキレイじゃん!
雑誌やテレビで見るより美人じゃん。
「父から互いで打つように言われたけど良いの?」
あ~~塔矢先生も絡んでるんだ。
なにか企んでるな…あの2人。
佐為にも互いで打てって言われてるからな…。
「はい、大丈夫です」
ニギってオレが黒、塔矢が白になった。
「「お願いします!」」
対局が始まった。
序盤で塔矢の強さを痛感する。
「流石た…コイツ…強い!」
一般で入段してから女流タイトルのみならず、一般のタイトルも女流で初めて獲得した棋士だから強くて当然か。
名人取った時は、一般のニュースにも取り上げられてた。
塔矢先生に棋譜もらって、佐為と並べたっけ。
そんなことを考えてるうちに、塔矢は鋭く厳しい手を打ってくる。
考え事しながら勝てる相手じゃないよな。
オレも集中しないと。
おっ、そう来るか…。
なら、これはどうだ。
塔矢の顔を見ると焦りの色が伺える。
あの塔矢アキラを、追い詰めていると感じてワクワクした。
打ってる間に楽しくなって、いつの間にか久し振りに本気で打っていた。
対局は整地まで縺れて、結果はオレの半目勝ち。
(楽しかった……)
あっ………。
対局が終わって冷静になって回りを見渡すと、重い空気が流れているような感じがした。
塔矢を見ると、落ち込んでるように見えた。
もしかしてマズった?
うわ~~どうしよう…。
…やり過ぎたかも…。