「いえ、結構です!」
我が家での毎朝の恒例行事になったアキラと明子のやり取り。
お見合いを受けるか受けないかの攻防戦だ。
アキラは淡々と断ると、さっさと出掛けてしまった。
「全く…碁にしか興味がないんだから!誰に似たのかしら…」
明子が私を睨んでいる…。
碁の邁進するのは、良いことだと思うのだが…。
そんなことを言えば、とんでもないことになるのは明らかだから黙っておこう…。
私も何処かに出掛けるか。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「で、ここに逃げてきた…と…」
毎朝、毎朝よくやりますね…。
と言って、佐為がニコニコと笑っている。
笑いながら厳しい一手を仕掛けてくる…。
「……………」
彼は藤原佐為。
縁あって私と知り合ったのだか、アマにしておくのは勿体ないほどの実力だ。
彼はプロにならず子供達に囲碁を教え、彼から囲碁を学んだ者はプロの門下生になり院生になり、そしてプロになり活躍している。
それでも彼がプロにならなかったのは、囲碁界にとってかなりの損失だと私は思う。
「でも、行洋も初めはアキラさんのお見合い乗り気ではなかったでしょ。可愛い娘を嫁にやるものか!…って」
「ああ…だが…さすがにな…」
アキラにお見合い話が上がるようになった頃は、まだアキラも20歳になったはかりだというのもあって反対だったが、あれから5年も経つとそろそろ貰い手がないかと思う。
親というのは勝手なものだ。
先ほど、碁に邁進するのは良いことだと言ったが、師匠としても教育は成功でも、少々親としての教育を間違えたのかもと不安になることもある。
「アキラが男を見る基準は棋力だからな。アキラのお眼鏡に敵う碁打ちはいないだろう…」
独身者では…。
「1人忘れてません?」
「何?」
「ヒカルを忘れてません?」
「……っ!!」
そうだ、進藤君がいた!
彼なら…もしかしたら…。