「泰ちゃん…!泰ちゃん…!大変だよ〜〜!ビックニュース!ビックニュース!」
昼休み、食堂でお昼を食べてたら、有坂がメチャクチャ慌てた感じで叫びながら現れた。
(せっかくのイケメンが、かなり崩れてマヌケ顔になってるわ)
こうなってる時は、ほぼ間違いなくパニックになってるんだよな。
(ホントに勿体無いよな…)
そんなことより…
「ここ(職場)で、その呼び方は止めろと言ってるだろ」
この年になって、公でそう呼ばれるのはちょっと恥ずかしいわ。
「そそそそそれどころじゃないんだよ~~~」
パニックぷりが、いつにもより増々になってないか?
どうした?
「とりあえず水でも飲んで落ち着けば?」
有坂に水を渡すとあっという間に飲み干した。
「大変なんだよ!!塔矢アキラさんがうちの会社に来る」
はっ?
「社長に指導碁でも打ちに来るのか?」
「んな訳ないでしょ…。彼女休場中なんだから」
「あっ、そうか…」
うちの社長が囲碁好きだがら条件反射でそう思ったけど、彼女は今棋士としての活動を全て休止してるんだった。
楽しみが半分減って淋しい限りなんだよね。
「そうじゃなくて、うちの会社に入社してくるの!」
はっ!?
………………
……………
…………
………
……
有坂の言葉を理解するまでに軽く1分以上かかったな。
「は~~~あっっ!!!」
なんですと!?
「煩い…。まあ、気持ちは解るけど」
ビックリし過ぎて叫んでしまった…。
そのせいで、食堂中の視線が私に集中してる。
(恥ずかしい…)
…気を取り直して
「何で塔矢さんがうちに入社してくんだよ 」
何でうち(会社)に?
社長が碁好きな以外は碁と何も関わりはない会社なんだけど。
「普通に求人に応募してきたらしいよ」
マジ…。
「ということは、もう棋士に復帰するつもりはないってこと?」
復帰するつもりなら転職なんてしないだろうし。
塔矢さんの活躍を追いかけるのが楽しみだったのに…。
「そこの所は泰ちゃんが探り入れたら良いんじゃない?」
「なんで私が」
「だって、塔矢さんの配属先泰ちゃんの所だもん」
「…マジ?」
「マジ」
塔矢さんがうちの部署に来るのか…。
信じられない…。
「ところでさ」
「何?」
「いつも思うんだけど、そういう情報はどこから手に入れて来るわけ?」
「秘密」
そう言って、有坂はニコニコ笑っていた。
塔矢さんが入社当日。
挨拶している彼女を見て「本物た〜!!」ってテンションが上がってたのはここだけの話。
「塔矢さんと一緒に仕事が出来るなんて。泰ちゃんだけ推しと毎日一緒なんて…羨ましいな。僕も進藤本因坊に会えたりしないかな…」
本物の塔矢さんを見て興奮しつつ、羨ましがってた有坂の「進藤本因坊に会いたい」という夢は2年後に叶うことになる。