「しょうがないだろ…いい加減、機嫌直せよ」
「だって……」
塔矢の機嫌が素晴らしく悪い。
塔矢の機嫌が悪い訳は、女流棋士で初めて一般のタイトルを取ったから、毎日マスコミに追いかけ回されて、営業スマイルが得意な塔矢も流石に疲れてるみたいで機嫌が悪い。
まあ、塔矢の機嫌が悪いのは、オレと打つ時間と一緒にいる時間がないのが原因なんだけどな。
オレだって辛いんだぞ。
(オレが最少年で本因坊取った時も凄かったもんな)
あの時も塔矢の機嫌が日に日に悪くなって大変だった…。
落ち着いてからイチャイチャしまくったら、塔矢の機嫌も直ったけど。
公の場では完璧な営業スマイルだけど、出会った頃からオレが絡むと素が出る塔矢が可愛いな…なんて、付き合うようになって益々思うようになった。
色々ノッてくれるしな。
(オレだけが知ってるっていうのは優越感だよな…)
オレだけが知る塔矢がいるって思うだけで、ニマニマしてしまう。
「じゃあ、オレと結婚する?」
結婚すれば家ではいつでも一緒だしイチャイチャ出来るし、碁も打ち放題!…塔矢の料理も食べ放題…一石二鳥どころか一石三鳥じゃん!!
塔矢に断れることはないだろう…と思って言ったんだけど…。
「ふざけるなーーーーっっっ!!」
えっ?なんで?なんで怒るの?
オレ達、結婚を結婚前提に付き合ってるんじゃなかったのか?
「えっ、お前…オレと結婚したくないの?」
「そんなわけないじゃないかっ!」
「じゃあなんで怒ってるんだよ?」
「一生に1度のことを、打ちながら軽く言わないでくれっ!」
えっ?塔矢ってプロポーズに夢見るタイプだったのか。
知らなかった…。
へそ曲げて結婚してくれなかったらどうしよう。
「やり直しっ!」
「えっ?」
「プロポーズのやり直しっ!」
「はい?」
「3度目はないからなっ!」
マジですか……。
次の日。
給料3ヶ月分で、塔矢が好みそうなシンプルな婚約指輪を買ってロマンチックな場所を選んで、改めて塔矢にプロポーズした。
「塔矢アキラさん、オレと結婚してください」
「はい」
結婚式は一般家庭のオレん家が、腰を抜かすぐらいに豪華なものになりましたとさ。