「ヤバいッ!遅くなった」
「預かってくれてるのは、あかりさんなのに」
「検討に熱が入ったアキラが悪いっ!」
「ヒカルだって熱くなってただろっ!僕のせいにするなっ!」
「あ~~~っ、とにかく、あかりの家に急ぐぞ」
「うん」
いつもの言い争いをしてる場合じゃない。
あかりさんの家に早く行かないと。
今日は、娘をあかりさんに預けてるから、なるべく早く行こうとは思ってたんだけど、名人戦2日目で簡単に終わる筈もなく…気が付いたら夜の9時過ぎで…。
検討が終わって落ち着いたあと、2人揃って慌てて会場を出る羽目になってしまった。
(相手がヒカルだったから、いつものように検討に熱が入ってしまったんだよね…)
普段は母に預かってもらうから気にしなくて良いんだけど、今回は父の用事で一緒に泊まり掛けで出掛けてしまって…。
それなら、ヒカルのお義母さんに預けようと思ったんだけど、夫婦で旅行だそうで無理だった。
「普段、旅行なんか行かないくせに、なんで今行くんだよ」
と、ヒカルは愚痴ってたっけ。
どうしようと本気で困っていた時。
「私が預かろうか?」
プライベートな理由で名人戦を延期してなんてお願い出来ないし、どうしようかと思っていることを、あかりさんに話したらそう言われたから、悪いとは思いながらもお願いしてしまった。
「ごめん…あかり遅くなった」
僕達があかりさんの家に到着すると、娘はもう眠っていた。
「私にはちんぷんかんぷんだったけど、今日も白熱した良い対局だったみたいだね」
あかりさんは今も碁を続けているけど、対局観戦はAIや解説頼みになるって苦笑いしてたな。
ちなみに、あかりさんのご主人は、休みが取れなかったそうで、泣きながら出張に行ったとか。
「今日は惜しかったけど、次は勝って名人戦防衛だね♪頑張ってアキラさん」
「もちろん」
あかりさんに言われるまでもなく、負けるつもりはない。
「あかり、オレへの応援は?」
「あっ、頑張って」
「…なんか…アキラとの温度差があるような気がするぞ?」
「そんなことないよ?」
と言って、笑うあかりさん。
あかりさんは、ずっと僕のことを応援してくれている。
子供が生まれた後も母とは違った所で相談に乗ってくれるし、子供達が同じ幼稚園ということもあって、今でも良いお付き合いをしていて、子供達も仲が良い。
(でも、あかりさんのご主人と会ったことが殆どないんだよ)
何故だろう?
暫くヒカルとの対局はないから、夫婦で過ごして娘ともゆっくり過ごせるかな。
あかりさんにお礼もしないとね。