「じゃあさ、せめて振り袖姿見せて!」
全ては進藤のこの一言から始まった。
「成人式に出ないのに着ても意味はないだろ」
言ってみたものの全く引き下がってくれない。 確かに、着物指定のイベントもスーツ参加だけど。 僕の振袖姿なんか見て楽しいか? 振袖は動きにくいから嫌いなんだ。
「考えておく……」
諦めてくれないから、進藤を宥める為にそう言って誤魔化した。
「~~~~~~」
家に帰ると、お母さんが振り袖を準備していた。
それは、もう嬉しそうに……。
「成人式なんて出ませんから」
進藤に言った言葉を家でも言うことになるなんて、お母さんは解ってると思ってたよ……。
「どうして?アキラさんの振袖姿楽しみにしてたのに……」
思わずげんなりしてしまう。
お母さんまで進藤みたいなこと言わないでください。
「振袖姿で進藤さんのハートを射止めるチャンスなのに……」
はっ?
何を言ってるんですか?
僕がどうしてそんなことしないといけないんですか!
「あら?アキラさん。進藤さんのこと気になってるんでしょ?」
「~~~~~~~」
………確かに気になるのは認めます。
でも、それは棋力であって本人ではないんですけど。
「進藤さんモテるみたいだから、振り袖姿でも見せて心を掴んでおかないと」
聞いてないし……。
「まさか、アキラさん、碁で繋ぎ止めてるとか思ってない?」
「……………」
「この間、着物姿の女性の方と歩いてる所を見たわ」
「えっ?」
「進藤さんもまんざらてはなかったみたいだし、このままだと他の女性に取られちゃうわ。そうなった時、アキラさん耐えられる?碁も打って貰えなくなるかもしれないわよ」
彼女との時間の方が大事になるかもしれないし……と言うお母さん。
進藤と打てなくなる?
そんなの絶対!イヤだ! 認めない!
そんなことになるくらいなら……。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
そして、成人式当日。 僕は、振り袖を来て進藤に会いに行った。
ちなみに張り切った母に、あ~でもない…こーでもない…と色々試され、着付けに3時間かかった……。
……疲れた……。
藤崎さんが僕の振袖姿を写真き撮っている。
進藤はというと……。 にやけた顔をして固まっていた。
「進藤!今から打つぞ!」
君のリクエストに応えて振袖着たんだからな!
これぐらい付き合って貰うぞ!
僕は進藤を引っ張って碁会所に向かった。
「塔矢…いや塔矢アキラさん、オレと付き合ってください」
「あっ、えっ、はい」
あっ、思わず勢いで返事ししてしまった……。
いや…別にイヤだった訳ではなくて……寧ろ嬉しいんだけど、もう少しロマンチックにしたかったな…とか思わなくもないけど。
まあ、良いか…進藤だし。
更に数年後、結婚式の衣装で進藤と揉めることになるのは……また別の話。