久し振りに藤崎さんとお茶をしてた時のこと。
「出来ちゃった」
「何が?」
「…赤ちゃん」
はっ!?
「…まさかヒカルの?」
あのバカッ!
僕という者がありながら、よりにもよって藤崎さんと浮気?
「ととと塔矢さん落ち着いて。相手はヒカルじゃないから」
頭に血が登ってパッと立ち上がった僕を慌てて藤崎さんが言う。
「あ……」
「もう早とちりなんだから。ヒカルは塔矢さん一筋なんだから浮気なんかするわけないでしょ」
中学の時に振られてるしね…と言って藤崎さんが苦笑いしている。
「ハハハ…」
僕としたことが恥ずかしい…。
気を取り直して…。
「そんなこと僕に言われても困るんだけど」
僕なんかに話すより他の知り合いに話した方が有意義では?
「そうかもしれないけど、塔矢さんにしか相談出来なくて」
「どうして?僕より恋愛経験豊富な知り合いいるでしょ」
思っていたことをざ口から出てしまう。
「プロ棋士の彼氏持ちなんて周りに居ないもん」
「えっ?」
「私の彼氏プロ棋士目指してて今年が最後のチャンスなんだよね」
藤崎さんによると、お相手は22歳の大学生で毎年プロ試験を受けてるけど落ち続けていて、今年が最後のチャンスらしい。
「プロ棋士の仕事がどんなのか知りたくて…」
「その前に試験に受からないとどうにもならないと思うけど」
「それはそうなんだど、お母さん達が生活とか凄く心配してて。ヒカルのおばさんに聞いてもよく解らないって言うし」
ヒカル…君は未だにご両親にちゃんと説明してないのか?
とりあえず、藤崎さんの質問に答えた。
●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●
「はあ〜あかりが妊娠した?」
「そうみたい。いきなり言われてビックリしたけど」
「あかりを傷物にしはヤツどこのどいつだっ!」
僕という彼女がいるのに、相変わらず藤崎さんが心配してるヒカル。
妹ような幼馴染を心配してるだけというのは解ってるけど(緒方さんや芦原さんがヒカルに向ける言動も同じらしい)、解っててもムカつくんだよね。
だから、枕を思い切り投げつけてやった。
バンッ!
「何するんだよ」
「藤崎さんに気持ちが行ってるヒカルが悪い」
「あっ、ごめん。悪かったって、許して」
そう言いながら飛びつくようにヒカルが僕を抱き締めてくる。
「あ…こらっ、ちょっと待って…あ…」
こうなるともうヒカルのペースに流されるだけ…。
「あかりがデキ婚なんて意外だな。相手についでになんか聞いてる?」
「うん。なんかプロ目指してるらしくて何年もプロ試験受けてるけど落ち続けてるんだって。ちなみに今年で最後になるらしいよ」
「ふ〜〜ん。ちょっと調べてみるか」
僕はヒカルの頬を思いっきり抓ってやる。
「イテッ!」
解っててもなんだかムカつくんだ。
ピロートーク中に他の女性の話はしたくない。
「明日、取材なんだぞ。腫れが引かなかったらどうするんだ」
「知るか」
「デキ婚か…それもありかもな…」
はあああ、何を言ってるんだ?この男は。
もう1度頬を思い切り抓ってやった。
「イッテ〜〜〜」
その後。
僕達の猛特訓のお陰で藤崎さんの彼氏はギリギリでプロ試験に合格した。
僕も巻き込まれたよ。
まあ、藤崎さんには幸せになって欲しいから構わないんだけどね。
でも僕が助けるのはここまで、これからはプロ同士真剣勝負。
「次は塔矢さんの番だね」
そう言って、藤崎さんが僕にブーケを差し出してきた。
(ヒカルと結婚したいと思うけど授かり婚はちょっと…)
と思っていたんだけど、数 カ月後ヒカルの有言実行なのかなんなのか、僕とヒカルは授かり婚することになるんだよね。