「なんで加賀とCM共演なんだよ…」
僕の何度目かのCM出演が決まってから、ヒカルはずっと不機嫌でそんな態度に我慢出来なくなった僕と言い争いになってから、まともに顔を合わせていない。
それから何日か経って、お酒を飲んで藤崎さんに愚痴を溢すヒカルを見かけて、思わず店に入って覗き見をしてる。
ヒカルと一緒にいるのが藤崎さん。
僕ともあろうものが、どうしてこんなことをしてるんだろう。
「そんなに落ち込まなくても、加賀さんと塔矢さんがどうにかなるわけないよ」
「そうそう…。「なんで塔矢とCM4なんか…」って加賀も不貞腐れてたから」
「今までの人は塔矢さんに気があったけど、加賀さんは筒井一筋だから心配ないって」
「ふ藤崎さん…////」
あっ、眼鏡を掛けた人が赤くなった。
もしかして、加賀って人の彼女なのか?
「囲碁界と将棋界の人気者同士のCM共演の企画だったら、オレと加賀でも良いじゃないか!なんでアキラなんだよ~~~~~」
「確かに」
「今までも、緒方さんに社、秀英や永夏まで共演したのに、オレには共演の話がないのはなんでなんだよ~~~」
「ワザと外されてるとか」
「………なんか言ったか?」
「べ別に…」
……………。
(藤崎さんの前では、あんなに無防備に愚痴溢せるんだ)
僕の知らないヒカルを知る藤崎さんは、いつまで経っても気の抜けない怖い存在なんだ。
ふとしたきっかけで、何か起きてしまわないかと不安で…。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「頭イテー」
昼頃になってヒカルが起きてきた。
あの後、藤崎さんに同じ店にいることがバレてたみたいで、ヒカルを押し付けられた僕は、仕方なくヒカルをマンションまで送り届けて帰るつもりだったんだけど………帰れなかった……。
こういうのを、なし崩しっていうのかな?
「あれだけ呑めば、頭も痛いだろうね」
「あれ?アキラ。なんでいんの?」
「藤崎さんに押し付けられたんだ」
ヒカルはぐっすり寝たみたいだけど、僕は寝れなかったから寝不足だよ…。
あ~腰が痛い…。
頭は痛そうだけど、なんだかスッキリしてる感じだね。
藤崎さんと仲良く呑んだから?
愚痴を溢してスッキリしたから?
……なんだか腹が立ってきた。
「藤崎さんといる時は楽しそうだね」
「なんだよ…急に」
「……君は、僕が緒方さんさん達と一緒にいる時心配だって、いつも言ってるけど僕もヒカルが藤崎さんと一緒にいる時、僕がどんな気持ちか解ってる?」
「………」
「ただの幼馴染みだっていうけど、僕の知らないヒカルを知ってる女性で、僕にとっては1番怖い女性だよ。いつかヒカルを取られるんじゃないかって…」
あっ、涙か止まらない…。
「男の人と共演する度に君は色々心配するけど、それって僕を、信じてくれてないってことじゃないか、僕はヒカルしか考えられないのに…」
「悪かった…ごめん」
我慢出来なくなって溢れだした想いをぶつける僕を、ヒカルは黙って落ち着くまで抱き締めていてくれた。
「なぁ、アキラ」
「なに?」
「結婚しよ」
「えっ?」
きっと今は僕は、あり得ないぐらい変な顔をしていると思う。
いきなり何を言い出すんだ?
「だ・か・ら!お前が色んな男達と共演するのを見るのは着かれたの。結婚しちゃえば、変な噂も立たないだろうし。お前もあかりのこと気にしなくて済むだろ」
だからって、そんなに軽いノリで言わなくても…。
僕にだって、プロポーズに夢はあったんだぞ。
それなのに…。
は~~~~~あ。
僕がヒカルからのプロポーズを断る訳はないけどね。
その後、藤崎さんの紹介で筒井さんと知り合ったんだけど、気が付いたら何も気にせずヒカルの愚痴を溢せたりするし、他にも意気投合して良いお付き合いが続きそうだ。
お互い彼氏(僕はもうすぐ夫になるけど)には苦労するよね…。
あと、碁がけっこう強いことも驚いたな。
僕とヒカルが結婚を発表すると、年配の方から「進藤君で大丈夫なんだろうか」という声が聞こえてきて…。
余計なお世話だよ全く…。
「ヒカルって、棋院の偉い人に信用されてないんじゃない?」
棋院で噂されてる内容を知った藤崎さんに、こう言われてヒカルは、とてつもく落ち込んだ。
幼馴染みって、こんなに容赦ないのかな…?
この状態のヒカルを立ち直らせるのは、骨が折れるんだよ…。