進藤と検討していたんだけど、集中出来ていないように見えた。
「どうした、進藤。考え事か?」
プライベートとはいえ、僕と打ってる時は集中してほしい。
「ああ、ネクタイがさ、スーツもなんだけど」
「はっ、ネクタイ?スーツ?」
それがどうした?
「最近、スーツ着ること増えただろ。毎回同じヤツだとさ…。周りにも言われてるし」
ああ、ぞういうことか。
新しいスーツやネクタイを買えと言われてるけど、どうすれば良いか解らないと。
「君のご家族に頼めば良いんじゃないか」
僕もお母さんに頼んでるし。
パンツスーツじゃなくてスカートを進められるけど断固拒否中。
「そうなんだけどさー。うちの親、俺がスーツ着て出掛けると不思議がるんだよな。だから頼みにくくて」
<進藤の家は囲碁界に疎いらしいし。br>
この会話で進藤の誕生日プレゼントを決めて買いに行ったんだけど、碁会所で落としてしまった。
ちょっと恥ずかしいから、内緒にしておきたかったな。
「アキラ君、落としたわよ」
「あっ」
「何?進藤君へのプレゼント」
「ええ、まあ」
「もうすぐ誕生日だもんね〜。私も、もうちょっと若かったら彼女に立候補したのに」
はっ、何言ってるんですか? 芦原さん泣きますよ。
「そんな怖い顔して、もしかして本気にした?」
市河さんがニコニコ笑っている。
ええ、本誌にしましたよ。
一瞬ですけどね。
それでなくても、進藤狙いの女流のことか女性ファンとか増えて気が気じゃないのに…。
誕生日当日は、棋院にもプレゼントがいっぱい届いたり、女流の子がプレゼント攻めするんだろう。
それを見て、僕はイライラすると思う。
僕は進藤が好きだから…。
ライバルとして2人で打って検討して過ごす、今の関係が心地良いから告白はするつもりはないけれど。
(進藤はどう思ってるんだろう?)
そんなことを時々思うけど、僕が打とうと誘ったら断られないし、進藤も僕を誘ってくれるから、無理はしてないと思うし嫌われてないとは思う。
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
進藤の誕生日過ぎて10月に入った頃。
「進藤、ネクタイ曲がってる」
「あ……」
「いい加減、しっかり結べるようになれ」と小言を言いながらネクタイを直す。
今日、進藤が結んでるネクタイは、僕が誕生日にプレゼントした物。
「似合ってるね。良かった」
「ああ…サンキューな」
悩んで選んだ甲斐があったよ。
〜オマケ〜
2025年10月。
「いい加減、捨てたら?」
「イヤッ!アキラがくれたプレゼントは全部取っとくの」
進藤改めヒカルは僕がプレゼントしたあのネクタイを、ボロボロなのに今も大事に持ってくれている。
僕もヒカルから貰ったプレゼントは全部大事に持ってるから、おあいこかな。