「塔矢さんもよりによって進藤君なんかと結婚しなくても」
「塔矢さんなら、良いお見合い相手いただろに」
「進藤とかいう奴のどこがよかったんでしょうねぇ」
「進藤みたいな訳の解らんチャラい奴と、塔矢さんは会わないだろうに」
「塔矢先生も、よく許したな」
囲碁界の色々な所から、僕と結婚したヒカルへの嫌みや悪口の噂話が飛び交ってる。
「進藤さんよりによって、塔矢さんと結婚するなんて」
「私、進藤さん狙ってたのに!!」
「私もよ~~」
「塔矢さん、進藤さんをこき使って、全部やらせてそう」
僕がヒカルを、こき使ってるって!
ふざけるなーーーーっっ!!
ヒカルは僕を大事にしてくれるし、僕もヒカルが大事だから、無理を言ったことはない。
寧ろ率先して色々やってくれるから申し訳ないぐらいだ。
皆、好き勝手なこと言って!
あ~~腹が立つ!!
「気にしないで良いわよ。あんな噂。偉い人や進藤狙いだった子達が勝手に言ってるだけなんだから」
僕の隣を歩いている柰瀬さんが言う。
「…僕は気にしてません」
「その割には眉間にシワ寄ってるわよ。記録係の子なんて、塔矢の迫力に震えて上がってし」
「…………………」
ここの所、こんな噂ばかり耳に入るから、イライラしているのは事実だけど…。
「それは対局中だったからです」
僕が碁に私情を挟むことはない。
「どうだか…。あんな迫力だから、進藤に我が儘言って無理させてるって思われるのよ」
「……………」
「本当は塔矢が進藤にベタ惚れだって知ったら、皆腰抜かすでしょうねぇ」
見てみたいかも…ってニマニマ笑う柰瀬さん。
「//////…」
そんなの知られたら、かなり恥ずかしい…。
「さあ、さっさと帰るわよ。進藤、今日も迎えに来てるでしょ」
多分ね…。
ヒカルも疲れてるだろうから来なくて良いって言っても、毎回空港や駅にいる。
しかも出掛ける時も送ってくれて…。
もちろん嬉しいんだけど、棋院の関係者に見られて、ヒカルに無理矢理送り迎えさせてるって噂になってしまったんだ。
今日も「絶対空港まで迎えに行くからな!」って行ってたから来てると思う。
「良いわね…ラブラブで…」
柰瀬さんにも彼氏が居て結構ラブラブなんだけど、それを指摘する勇気が僕にはない。
(そんなこと言ったら、後が怖い……)
●〇●〇●〇 ●〇●〇●〇●〇
「お疲れ~」
予想通りヒカルは空港に迎えに来ていた。
「疲れただろう。家に着くまで寝てて良いぞ」
「うん…」
いつも送り迎えしてくれることが申し訳なくて、僕もヒカルを送り迎えしようとしたら、「お前は車の運転しなくていい!」って必死に止められたんだよね。
何故だ?
「風呂の準備出来てるから、飯の支度してる間に入っちゃえよ」
「ああ」
帰宅するとお風呂を勧められた僕は、ヒカルの言う通り、お風呂に入ることにした。
(今日の夕飯はカレーだな)
正直、ヒカルと付き合い始めた頃は、家事が出来るようになるなんて考えられなかったよね…。
それぐらい一人暮らししてるヒカルの部屋は酷かった…。
初めて彼氏の家に行ってしたことが、部屋の大掃除っていう女性は少ないと思う。
それから色々教えて、気がついたらお母さんに教えて貰って…上手くなってた。
少し雑な所はあるけど、美味しいから良いんだ。
「あっ……」
もしかして太った…?
鏡に映る自分の身体を見て少し焦る。
不味い。
結婚式が終わって、ちょっと油断しかも。
ヒカルの作る料理が美味しいから、ついつい食べ過ぎてしまうんだよね。
ヒカルの作る料理は洋食が多いから、カロリーが高めなんだよ。
(これ以上、増えないように気を付けないと!)
それは、とりあえず置いておいて、明日は漸く2人揃って取れた久し振りの休みだ。
検討したりして、2人でゆっくりしよう。
新婚なのにすれ違いばかりで、夫婦でイチャイチャする時間がないなんて悲し過ぎるよ…。