「やらないっ!」
僕達は今、結婚式をやるかやらないかで揉めてる。
ヒカルがやりたい派で、僕がやりたくない派。
「結婚式なんてやらなくても良いじゃないか」
「オレは、お前のウエディングドレス姿と、白無垢が見たいっ!」
嫌だ…。
めんどくさい。
「お前。ウエディングドレスとか興味ない訳?」
「ない…」
「えーっ、あかりなんか小学生の頃から「将来、こんなの着たい」って言ってたぞ」
どうして、ここで藤崎さんの名前が出てくるんだ。
あっ、藤崎さんの名前を出せば、僕が着ると言い出すと思ったとか?
もしそうだとしても、その手には乗るか。
この間、藤崎さんに、この言い合いの愚痴を零したら…。
「えーっ?!ウエディングドレス着たくないって、本気で言ってるの?」
…って、ビックリされた。
「私も塔矢さんのウエディングドレス見たい!!」
その上、ヒカルと同じことを言われるし。
流石は幼馴染み。
「ごめ~ん、私、基本は塔矢さんの味方だけど、これだけはヒカルの味方」
藤崎さんの裏切り者!
ちなみに、母や市河さん…芦原さんにまで、ドレス姿が見たい!!…と言われたんだけど、何故僕のドレス姿がそんなに見たいんだ?
僕のドレス姿なんて、たいしたこのないと思う。
「それにさ、お前の場合、後援会があるし…やらないと不味くない?」
「……」
痛い所を突いてくるな。
でも、そこは妊娠中だからやらないで押し通す予定だから心配はない。
「結婚式やらないと、囲碁界では結婚したこと信じてもらえないかもしれないし…」
囲碁界ではライバルで通ってるし、付き合ってることを知らない人は多いけど、別に皆に知ってもらう必要はないと思う。
「あとな、塔矢先生も見たがってるぞ」
「まさか…」
母が盛り上がって騒いでた時、隣で「好きにしなさい」と呟いていたのを僕はしっかり聞いた。
「それ気を遣って言っての。お前が興味ないの知ってるからな」
「嘘?」
「ホント。親孝行しないとな」
「お義母さんを、ほったらかしにしてる君に言われたくない」
「う…っ、オレの場合は、アキラと結婚したことが最大の親孝行なの。だから今度はお前の番」
「…………」
なんだ?その解釈。
父が僕のウエディングドレス姿を見たがってたなんて知らなかった……。
(ヒカルには本音を言ったりするんだ…)
父の意外な一面を見たかも。
僕に気を遣ってるなんて娘としてはショックだけど、それだけヒカルを気に入ってるってことなのか?
父が見たいと思ってるなら、見せてあげても良いかな。
このままだと平行線だろうし。
「分かった…着ればいいんだろっ!着ればっ!但し、写真だけだからな」
「えーっ!」
「えーじゃないっ!写真だけはOKしたんだから、ヒカルも結婚式は諦めろっ!!!」
「ははい…」
結婚式は、問答無用の圧力で諦めさせて写真を撮ることになった。
この話はまだ続きがあって、僕はウエディングドレスだけで良かったんだけど、母が「白無垢も!」…と譲らなかった上に、写真を2枚撮るだけなのに張り切ってしまって、もう結婚式をやっても同じだったんじゃないかと思ったぐらいだった。
僕は対局以上に疲れ果てたけど、親孝行だと思って耐えたよ…。
隣にいるヒカルは、いつまで経っても元気だったけど…。
体力馬鹿だよね…全く。
その後の話を少ししておくと…。
2枚の写真で作った結婚報告を後援会や囲碁界関係者に配って、マスコミに発表したら、ちょっとした大騒ぎになって大変だったけど、それから数ヵ月後、無事に女の子が産まれた。
ヒカルの溺愛ぷりが凄くて…これから大丈夫かと心配になりつつ、気が付けばヒカルの押しに負けて、立て続けに女、男、女の順番で3人も産んでいた。
(僕も2人は欲しいな…とは思ってたけど、ほぼ連続で産むつもりはなかったよ…)
お母さん達が居なかったら、子育て大変ったかもしれない。
3人目の時にお義母さんが釘を刺してくれなかったらどうなっていたか…。
考えただけで、ゾッとする…。
(いつまで経っても、夫婦のスキンシップを止めそうにないから…)
子供が居てもお構いなしだ。
恥ずかしくないのか?
まあ、僕もヒカルが好きだしヒカルのお陰なのか、そういうこと嫌いじゃなくなってて本気で拒めないんだけど…。
このことは、ヒカルには内緒。
ヒカルにあまり流されないように気をつけて、夫婦としてライバルとして、これからも仲良く暮らしていければ良いと思う。