僕が藤崎さんと再会?したのは、とある碁のイベントだった。
藤崎町さんが男に絡まれているところを助けたんだ。
「碁の普及に取り組まないといけないプロが、こんなところで女性相手になにをしてるんですか!」
男は人気のない場所を選んだのはようだけど、大事になったら不味いと思った僕は、躊躇なく止めに入った。
「げっ!塔矢アキラ」
「お兄さんといい…あなたといい…プロ棋士なのに情けない…」
この男は兄もプロなんだけど、兄弟揃って評判が良くない。
こんな男をイベントのメンバーに入れて、なにか問題が起きたらどうするつもりだったんだ。
今も僕が通りかからなかったら、問題が起きていたかもしれない。
「今回のことは、報告しておきますからね」
「くそ…………っ!」
報告したら、この謹慎処分にはなるだろう。
男は悔しそうに去って行った。
「どうして、ここに?今日は進藤はいないよ」
「ヒカルは関係ないよ。たまたま碁のイベントあるの知って来たんだけど…あんな目にあうなんて…」
イベントを楽しんでたら、さっきの男にナンパされて断ると、力ずくで了承させようとしたらしい。
「怪我とかしてない?」
「大丈夫…」
「向こうで少し休もう」
「ありがとう…」
その後、お詫びを兼ねて藤崎さんに無料で指導碁を打ったら、後日助けてくれたお礼と言って食事に誘われた。
そこで、色々な話をしてるうちに(もちろんヒカルのことも話した)お互い楽しくなって、また会おうと言うことになって、今に続いている。
そういえば、それから1年後、藤崎さんにヒカルと付き合ってることが、あっさりバレて…悲しまれると思ったら喜ばれたんだっけ。
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「塔矢さん、ヒカルと付き合ってる?」
えっ?
どうして知ってるの?
もしかして、ヒカルが話した?
「おばさんが急にヒカルが1人暮らししたいって話してたから、ピンと来たの」
なんだ……。
誰かにバレた訳じゃないんだ。
それにしても、藤崎さん…勘が鋭いな。
僕なら、絶対解らない。
「うん、付き合ってる」
言い訳してもしょうがないからら、あっさり認めた。
「オレガ1人暮らしすれば2人の時間が増える…って、ヒカルが言い出して」
今も僕の実家で2人で過ごしてるんだから、このままで良いと思ったんだけど、ヒカルは僕の実家に入り浸るのが落ち着かないらしい。
「そうなんだ……。忙しいもんね…2人ともデートするのも大変そう…」
最近、碁以外の仕事も増えて、とても忙しい。
進藤と打つ時間を確保するのも大変なのに、デートの時間なんて確保するのが厳しくなっている。
「そう大変なんだ。付き合い始めた途端にこれは、流石に辛いよ」
進藤…君、神様を怒らせるようなことしたんじゃないだろうな?
神様なんて信じないけど、そう思いたくなる状況だぞ…これは。
その後も僕は、藤崎さんに愚痴を溢した。
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そして今、今年で19才になる僕達。
今日は藤崎さんの大学の囲碁部に指導碁にきた。
「うわ~~~本当に塔矢アキラだよ」
囲碁部の部員達が、一斉に僕を見て大興奮している。
いつも思うのだけど、どうして僕を見ると皆そんなに興奮するんだ?
こんなことを思っていると、また藤崎さんに、塔矢さん自分の魅力に無自覚過ぎ!…って、怒られるんだろうな…。
「塔矢先生、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
挨拶を交わす僕と囲碁部部長。
この人が、藤崎さんの本命か……。
優しそうな人だな…。
この人が持つ優しさは棋風にも表れていて、優しいせいか踏み込むチャンスを逃している印象だったから、そこを注意しておいた。
「せっかくのチャンスを遠慮して自分から逃してるように見えます。あとで後悔しても遅いのでチャンスな逃さないようにした方が良いですよ」
きっと藤崎さんとお似合いだから、上手く行ってほしい。
そんな思いも入ったアドバイスになったかな?
碁って、性格が滲み出ることがあるから。
頑張れ!藤崎さん。
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「お前だけ、あかりの指導碁なんて羨ましい。オレも、あかりの本命見たかった~」
「優しそうないい男(ひと)だったよ。上手くいってほしいね」
その日の夜、指導碁に行けなかったことを、心の底から悔しがっているヒカル。
「仕方ないだろ。本因坊をとって忙しくなったんだから」
ヒカルは本因坊を獲得した。
18才での獲得ということでマスコミにも取り上げられて、ヒカルは益々忙しくなって2人で過ごす時間が更に少なくなっている。
ちょっと、いや…かなり寂しい。
「しっかし、お前とあかりがこんなに仲良くなるなんてビックリだ」
僕も、ちょっと驚いてるかな?
藤崎さんのお陰で、碁しか知らなかった僕も女性としての視野が広がった気がする。
洋服のことやお化粧、
藤崎さんは僕のお陰で、碁と和食作りの腕が上がったと喜んでくれている。
「就職したらセクハラ撃退法教えてね」
と言われておるけど…役に立つのだろうか?
そんな訳で、これからも色々あるだろうけど、お互い持ちつ持たれつで、この友情が長く続くと良いな…。