女王様を手に入れろ! 85
(光明サイド)

「ねぇ、光明君、これなんかどう?」

今、僕は恵と買い物に来ている。
免状授与式に着る服を選んでいるらしい。
家族で選べば良いものを、最近は恵の両親にまで世話を押し付けられている。

「恵の親公認なんて良いことじゃない。将来結婚する時楽だし」

明美が楽しそうに言ってたけど…気が早いぞ。

ふと、そんなことを思い出しても…恵が楽しそうに服を選んでるのを見ていても、僕の心はそれどころではなかった。
恵がプロ入りを決めた日に見た最終戦の棋譜が頭から離れないんだ。





「おい、光明」
「なんだよ…」

親父…また僕をからかう気か?

「恵ちゃんの最終戦の棋譜だ」

なんだよ…その不気味なドヤ顔は…。
まあ親父はほっといて、せっかくだし見るか。

……………
…………
………
……

相変わらず攻め遅れて押されてるじゃないか…。
しかも石が死にかけてるし…。
これは悪い癖が出て負けかと思いながら、先の手を見ていた。

(これはっ!?)

何手目かの手に驚いた。

アイツが唯一の活きる道を見つけた?
いつもなら、ここで諦めて負けていたのに…諦めなかったのか。
プロでも見落としそうな唯一の活きる道を正確に打ち切るなんて、アイツ…恵にとって最高の碁じゃないのか。
いつの間に、こんなに強くなったんだ。

「いや~お前に碁を教えるように言ったオレを誉めてやりたいよ」

また親父はドヤ顔だよ…。

お陰でアイツに振り回されて大変な目にあって、何度親父を恨んだことか…。
今は、まあ楽しいけど。

「恵ちゃんがお前を追いかけて海王に入ってくれたから、加賀と三谷の息子にも出会えたし、ホント恵ちゃんに感謝だな」
「…………」
「少しは碁を楽しめるようになったか?」

楽しくないわけではないと…思う。

「コックになるのも反対しないけど、お前がプロの世界に来るのは、いつでも大歓迎だからな」

親父もお母さんも、やっぱり僕がプロになることを望んでるのか…。





「光明君、聞いてるの?」
「えっ?」
「えっ?じゃなくて、このワンピース似合ってるって聞いてるのに…」
「ああ…馬子にも衣装だな」
「もう~光明君酷いよ……」

恵の頬がプーッと膨らむ。
ちょっと可愛いかも?
というか…僕に意見を求めるな。
僕にファッションセンスを求めないでくれ。

「それよりお前…免状授与式で壇上から降りる時、階段踏み外して転ぶなよ」
「ああ、それは光明君がいないなら大丈夫だよ。私が躓くのは、光明君が目に入ってくるからだし」
「前から思ってたけど、なんだよ…それ?」
「さあ?でも光明君なら絶対、受け止めてくれるでしょ」

その自信に満ちたドヤ顔は。
怪我されても困るからわさ、ちゃんと受け止めるけどさ。

(こうしてると、恵がプロになることも、あんな手を打ったなんて信じられなよな)

あんな凄い手を見つけた奴とは思えないよな…。

(鉄宏と正輝もプロか…)

アイツ等なら公式戦で、いつか面白い碁を打つだろう。
恵も打つかもしれない。
そこに僕が入れないのは…少し残念?
…いや…恵達とはプライベートで、幾らでも打てるし。
…いや…あの公式戦の緊張感の中で、勝負してみたい…?

…………………
………………
……………
…………
………
……

僕の心が、なんだかザワついている…?


NEXT




Page Top